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灯光暗澹 (幸柳)




何かあるの?
やけに人通りが多い駅前で、蓮二に尋ねた。
「花火大会じゃないか?」
「ああ、去年もあった気がする」
言われてみれば、浴衣を着た人がやけに多く、皆が吸い込まれるように駅の改札を通っていく。
「花火なんて、随分とやっていないな」
「…やる?」
蓮二の小さな呟きに、自宅にあった線香花火を思い出す。
「…あるのか?」
「家にあるよ」
「……そうか」
そう言った蓮二の顔が僅かに弛んでいた。



「線香花火か」
「…ねずみ花火とか、打ち上げるやつ期待したの?」
「…いや、違う」
「残念だったね」
言いながら蓮二に線香花火を渡す。
蝋燭に花火を近付けると、弾けるような光が花火の先端に灯った。

「…蓮二」
「…ん?」
花火に気を取られ、蓮二の返答は上の空のままだ。
「これ、先に落ちた方が何でも言うこと聞くってどう?」
「ああ、そうだな…」
心ここにあらずな蓮二に、更に続ける。
「二言は無いね」
「あ、落ち……えっ?」
線香花火の火が消え、蓮二が顔を上げた。
「はい、蓮二の負け」
「精市…?」
「人の話を聞かない蓮二が悪い」
「え…?」
「線香花火の火が先に落ちた方が何でも言うこと聞くって、言ったよね」
「そんな…」
「蓮二も否定しなかった」
「それは、その…」
「言い訳しない」
しゃがんだまま呆然とする蓮二の手から燃え尽きた花火を取り、自分の花火と一緒に水を張ったバケツに投げ入れた。
「とりあえず今日は泊まりね」
「え、あ、待っ…」
慌ただしく立ち上がった蓮二が後ろからついてくる。
まだ納得がいかずに混乱と疑いをたたえたその顔がどうしようもなく可愛く思えて、俺はまた次の理不尽な悪戯を考えるのだった。


end



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