main | ナノ
8 面影




柳さんが学校を休むなんて、初めてだった。
風邪気味でマスクをしているのは見かけたことがあるけど、休まなければならなくなる程具合が悪いのだろうか。
不安が募っていく。
本当だったら休み時間にでもメールか何かしていたけど、俺が副部長に「蓮二は休みだ」と言われたのは放課後だったのだ。
できれば朝練の時に言ってほしかった。

部活の直前にそんなことを言われてしまっては、気が散って練習に集中できない。
そう思っていたのは見事に的中し、ボールを三回も変な方向へ飛ばした俺は、柳生先輩と仁王先輩が打ち合いをしているのを突っ立ったまま眺めている。
すると、背後から誰かにのしかかられた。普通に重い。
「何してんだよい赤也」
「…重いっす」
丸井先輩だった。
「トレーニングになっていいだろい」
「いやほんと体重かけんのやめて下さい」
「それよりお前さ、ぼーっとしすぎじゃね?」
丸井先輩はポケットをごそごそ探って出した飴をを口に入れ、俺の上から退いた。
「…別にしてないっすよ」
「嘘つけ、してるだろい」
丸井先輩の目が、意味深な光を含む。
「……何すか?」
顔をじいっと見つめられて、嫌な予感がよぎる。
まっすぐ俺に向けられた視線に、全てを見透かされてしまっている気がしてならない。
柳生先輩たちを見るフリをして、目をそらした。
「どうせゲームして寝不足なんだろい?」
「はい?」
予想外の言葉に、思わず聞き返す。
「違うのか?」
「え、あ、いや…違わないっす」
しどろもどろになりながら、とりあえずそういう事にしておいた。
するとその時、ジャッカル先輩が前を通った。
「あ、おいジャッカル」
「お、ブン太お前どこ行ってたんだよ。ほら、行くぞ」
丸井先輩は見事にジャッカル先輩に回収され、俺は取り残される。
フェンスに寄りかかって、柳さんがいたらきっと呼びに来るんだろうなとか思った。そして俺がだるそうに返事を返すと、「弦一郎に叱られるぞ」と優しい声音で言うのだ。
それが柳さんの殺し文句みたいなやつで、部活以外にも俺の勉強面や生活面においても発揮される。ちなみに、真田副部長のみならず、幸村部長の名前まで出すことがあったりもする。

でも、今日は柳さんがいない。
今頃はどうしているんだろうか。
部活が終わったら電話でもしようか。
いや、メールの方がいいか。
具合はどうなんだろう。
そして、明日は来るのだろうか。

聞きたいことが、山ほどある。
とりあえず、副部長に叱られる前にラケットを持ってコートに入った。

すれ違ったとき、何故か幸村部長が笑っていた。
何かを知っているようなその笑みは、柳さんにそっくりだった。

気のせいだろうか。



Novel
Site top


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -