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繋がれて




がたん、ごとん、がたん。
この電車の規則正しい音が、眠気を誘う。
夕日に照らされた柳生の横顔は、とても綺麗だった。
そうやってじいっと彼を見つめていると、眼鏡の奥の鋭い瞳が俺を捉えていた。
「どうかしましたか、柳くん」
「いや…なんでもない」
すると彼は相好を崩し、「そうですか」と笑うのだった。
「…柳生」
「はい、なんでしょう?」
「…よん、」
「呼んでみただけ、ではないですか?」
お前も、そんな顔をするんだな。
大人をうまく出し抜いた子どものような笑顔に、俺も声には出さずに笑った。
「…どうして、分かったんだ?」
「貴方とこれだけ長い間一緒にいるのですから。色んな表情を見てきましたし、声も聞いてきました。分からないはずがありません」
「そうか」
「ええ。それはそうと、柳くん」
「ん、」
「今日は、どうされるのですか」
「そう、だな…」
もはや恒例となったやりとり。
この話題を振るのはいつも柳生からと、何故か気付いたら決まっていた。
「明日柳くんの授業がなければ、私の家に泊まりませんか」
柳生は、俺が木曜日に授業を入れていないのを知っている。
けれど毎週、必ずと言って良いほど授業が無いか確認してくるのだ。
それは彼の癖なのだろうし、俺も何か言ったりはしない。
そして、丁度俺が頷くタイミングで、下車駅が近いことをつげ知らせるアナウンスが響く。
「降りましょう」
「ああ」
階段を経て改札口を抜け、柳生の住むアパートに向かう。
俺が住んでいるのはその駅から二つほど遡った駅の近くだ。
割と近い距離にあるから、水曜日は隔週で柳生が泊まりに来ることが多い。
先週もそうだったので新たに布団を敷いたが、結局一つで事足りた。
それを見越してか、柳生の家には一つのベッドしかない。
「この間偶然、そこの駅で丸井くんに会いましたよ。相変わらずでした」
「ふふっ…そうだろうな」
最後に俺が丸井と会ったのは半年近く前だが、中学の時から変わらないであろう姿は簡単に想像できる。
「…また、皆で会いたいな」
「ええ、そうですねぇ…」
「そうだな…」
感慨深そうに言った柳生のイントネーションがなんだか面白くて、少し笑ってしまう。
何ですか、と惚けて聞く柳生に何でもないと返し、少し先の横断歩道の信号へと目を逸らした。
それからすぐに視線を柳生に戻すと、こちらを見つめていた彼と目が合った。
「柳生、…」
「柳くん。そんな寂しそうな顔をなさらなくても私は、貴方の傍にいますよ」
そんな顔を、俺は本当にしていたのだろうか。
誰もいない横断歩道で、信号が青に変わるのを待つために立ち止まった。
それから、優しく笑っている柳生に小さく頷く。
この横断歩道を越えたら、滅多に人が通らない往来を経て柳生の家に着く。
そしてその往来でだけは手を繋ぐのが、二人の癖のようなものだ。


けれど、今日は違った。
横断歩道の前で柳生の手が俺の指先を掴んだのだ。
汗をかいているのは別として、その手は温かく、ほんの少し、震えていた。
幸いにも人はいなくて、その指が家に着くまで離れることはなかった。


玄関に入るとすぐに抱きしめられ、俺の体はベッドに沈んだ。
「貴方が、好きです」
耳元で囁いた声に、少し、体が震えた。


end



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