main | ナノ
再会




「俺は絶対、柳さんとずっと一緒にいるッスよ」
ずっと前の赤也の言葉が脳裏に蘇った。
それと同時に、何とも中途半端な別れ方をしたものだと悔恨がよぎる。
現在から見れば、赤也が前述の言葉を言ったことは思い出の部類に入ってしまう。
けれど、簡単に忘れられるようなものでもない。
そんなとき、掛かってきた電話に淡い期待を抱いてしまった。
けれど、携帯の画面が精市の名前を映しているのを見て現実に引き戻される。
あの名前はもう、アドレス帳に登録されていない。

「もしもし?」
「ああ、蓮二」
「どうかしたか?」
「今、出てこれる?」
そう言われて時計に目をやると、時刻は夜10時を指していた。
「大丈夫だ」
「良かった。じゃあ…」
電話の向こうで嬉しそうに頷いているであろう精市に場所を指定され、家を出る。

待ち合わせた駅前は思っていたよりも人が多く、そこから精市を見つけ出すのは結構大変そうだ。
「蓮二」
その時背後で名前を呼ばれた。
「精市」
「探したよ」
「済まないな、遅かったか」
「大丈夫だよ」
行こう、と言われ、行き先も用件も知らないのでただ後をついて行く。
そして着いたのは、なんて事無い普通のファミレスだった。
「もう一人来てるんだ」
ドアに手をかけて、精市が言った。
「そうか」
「赤也…なんだけど」
「え…?」
頭の中が真っ白になった。
今更合わせる顔など無い。
不安と焦燥に、鼓動が速まっていく。
「蓮二」
「せ、精市…」
「帰る?」
「っ、…」
「いいよ、帰っても」
その優しい声に、少し甘えてみてもいいのかもしれない、そう思った。
「…いや、いい…」
小さく首を横に振る。
合わせる顔など無いけれど、会いたくないのかと言われれば嘘にもなる。
店内を精市の後について歩くと、窓際の席に懐かしい後ろ姿を見つけた。
歩幅が無意識に狭まり、歩く早さが遅くなる。
「赤也」
そう精市が呼ぶと、赤也が振り返った。
「遅いッスよー、俺何分待ったと…」
赤也の言葉が尻すぼみになる。
予想通りの反応に、胸が締め付けられるような思いがする。
「やな、ぎさん…?」
「ああ、そこで会ったんだ」
そう言いながら精市は手で俺に窓際の席に座るよう示した。
丁度赤也と向かい合う形になって、どこを見て良いか分からず、テーブルに視線を落とした。
それから沈黙に耐えられず、一分も経たない内に口を開いたのは赤也だった。
「……柳さん」
「ん…」
顔を上げても、目は合わない。
「…何で、あんなこと言ったんスか」
中学生の時から数えても、赤也のこれほど真剣な顔はあまり見たことがない。
「…それは…」
窓の外に目をそらすと、精市が携帯の画面を見ているのが映っていた。
「嫌いになったからッスか?」
「……違う…」
「じゃあ何スか?好きだったんなら、何で別れたいなんて言ったんスか?柳さん言わないから俺ずっと分かんな…」
「赤也」
精市の声が飛び、赤也の挙動が一時停止する。
「…すいません」
「ぁ…赤也…」
「…何スか?」
「…もう……俺の事は…嫌い、か…?」
赤也が驚いたように目を見開いた。
「ちょっと、電話してくる」
精市が席を立った。
「…柳さん」
「……」
「教えて下さい」
「ぇ、え…?」
「何で、別れたいなんて言ったんですか?」
平静を取り戻した赤也の口調に、俺は訥々と喋り始めた。
「…駄目だと思った…」
「駄目…?」
「一緒にいても、俺は…」
「柳さんは…何?」
「俺は、お前に…迷惑をかけるだけだ……」
「どういう意味?」
赤也は、急かしたい気持ちを必死に押さえているのだろう。昔から変わらない、指で机を叩く癖がそう告げていた。
「迷惑なんて、俺言いました?」
「……違う、違うんだ…先のことを考えてみれば、あのまま付き合っていたら…」
あのまま付き合っていたら、俺は赤也の先の人生を奪うことになってしまう。俺が男であるという事は、どうやったって変わらない。
「だから、あんな事?」
責め立てられているような気持ちになり、声が出ずに頷く。
赤也が腑に落ちないような複雑な表情になり、どうして良いか分からず黙り込んだ。
「覚えてないんスか?ずっと前、俺が何て言ったか」
「え…?」
思いもしなかった言葉に、覚えている限りの過去を振り返った。
「忘れたなんて言わせないッスよ。柳さん、指」
「あ…」
机の上で組んでいた指を広げてみると、右手の指に銀の輪が反射して光っていた。
「何でまだ、それしてるんスか?」
「それは…」
赤也が「絶対柳さんとずっと一緒にいる」との旨を告げてきたときに俺の指に無理矢理はめた指輪は、サイズの所為だろうか、外すことができなくなってしまっている。
「俺、ずっと一緒にいるって言ったんスよ」
今までずっと忘れられなかったことを、赤也が口にした。
「そしたら柳さんも一緒にいたいって言ったんスよ」
「え…?」
「俺、柳さんを迷惑だって思ったこと一度もない」
「……」
「柳さんの“ずっと”って、いつまでッスか?」
「…ずっと…?」
「俺は、死ぬまでとか、そんくらい先までだと思ってた」
今まで閉じこめていた何かが解放されていくような感覚を覚えた。俺は、赤也が考えていたことを知らなかったのだろう。
「……赤也の思っていることは、正しいよ」
「…柳さん。柳さんが何の心配をしてようと、俺は、柳さんが好きだから一緒にいたいっス」
「…ずっと、か…?」
「ずっとッスよ」
「……俺も、ずっと一緒にいたかった…」
「…そうすれば良かったんスよ。あんな事、しなくても大丈夫だったんスよ」
本当は、赤也との関係を断ちたくなかった。別れたくなかった。
でも、それを押し殺して背を向けていたのだ。
救われた気がして心が弛緩し、堰を切ったように涙が出てくる。
「あ…っ」
「え、ちょ、泣いて…」
「…違う…そういう…事では…っ」
「赤也」
不意に、背後で赤也を呼ぶ声がした。
「っせ、精市…」
「赤也が泣かせたの?」
俺を一瞥し、精市は赤也に問いかける。
「え、その、誤解ッス、俺別に…」「見苦しいよ」
「え、ちょ、ゆきむ…」
「泣かせたから罰ゲームね。今日奢り」
「ぇえええ!?」
「大きい声出さない。あ、俺これね」
そう言って、精市は店員を呼び出す為に備え付けられたボタンを押した。
「ちょ、これ高っ…」
「蓮二は?」
「…同じ物でいい」
「や、柳さんまで…」

それから深夜料金も加算された赤也の財布が紙幣を失ったその日、俺の携帯のアドレス帳には彼のアドレスが登録された。


end

長いですね…;;
最後までお読み下さり、ありがとうございました^^



Novel
Site top


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -