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暗黙の了解 (赤柳)




偶然とは、重なるものらしい。
その日は用があって、日付が変わった後も起きていた。
午前零時十五分を、時計の針が指した頃。
携帯が鳴って静寂にに水を注した。
ディスプレイに表示された名前に多少の疑問を抱きながら電話に出る。
「もしもし?」
「あ、起きてたんスね!」
随分と嬉しそうな声で赤也が言った。
「こんな時間に電話なんて、珍しいな」
メールなら、まだ頻度が高いのだけれど。
「今日、何日か知ってます?」
六月四日。
すっかり忘れていたわけではないので、それに追随して自分の誕生日だと思い出す。赤也がやりたい事は、すぐに理解した。
「六月三日」
「もう、日付変ったッスよ?」
笑っているかは電話なので知りえないが、言葉の端に歓喜が滲んでいる。
「なら、六月四日か」
「誕生日、おめでとーッス」
「…ありがとう…」
「柳さん」
「ん?」
「柳さんが起きててくれて良かったッス」
「電話してくるのは予想外だったな」
「そうッスか?…ありがち、ッスけど」
誕生日に日付が変わった瞬間電話、なんて漫画にもありそうな使い古しの慣習ではあるけれど。
「でも、俺は嬉しかったんだ」
「なら、良かったッス。……柳さん」
「何だ?」
「会いたいッス」
小学校が同じだったくらいだから、家が遠いわけではない。
会おうと思えば、簡単に実行出来る。
それを阻むとしたら、深夜一時を回ろうかという時間だけだろう。
けれど、誰もそういった現実的で具体的な方法の提示はしなかった。
「明日になれば会える」
「そう…ッスね」
何かを望んで焦がれれば焦がれるほど、叶ったときの喜びは大きいのだから。




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