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6 影法師




それから保健室を出た後、不意に赤也が立ち止まった。
「…柳さん」
「何だ?」
「忘れ物したッス」
「取りに行くか?」
するとすぐに、ちょっと待ってて下さい、と言い残し、赤也は校舎に引き返した。

校門の前で一人取り残され、暇を持て余して赤也の後ろ姿を眺める。
すると、さっき保健室で彼が口にした言葉に疑問が沸き起こった。
赤也と二人で帰ったことは何回かある。
でも、今まで一度も「送る」と言われたことはなかった。
それ以前に、先輩が後輩に送られるのは如何なものなのだろうか。
さっきは特に考えずに聞き流した言葉が、つっかえて飲み込めなくなった。

ふと目線を上げると、校舎の窓の向こう側に赤也の姿が見えた。丁度、二年の教室がある階だ。
彼はこちらには気付いていないらしく、目線を外す。

二、三分すると、赤也が走ってきた。
「すいません。遅かったッスよね」
「いや、大丈夫だ」
「これで、今度こそは帰れるッス」
「そうだな」
赤也の子供みたいな挙動に笑いが込み上げてきて、彼に気付かれないように笑みを零す。
「あ、柳さん笑った」
「え?」
「今、笑いましたよね」
念でも押すように赤也が確認してきた。唐突だったので戸惑い、否定する余裕がない。狼狽しながら言葉を選んだ。
「あ、いや、そういうつもりでは…」
「今日柳さんが笑うの、初めて見たッス」
「ああ…そういう事か」
安堵し、頬が弛む。
それを自覚したのは、
「また笑ったッスね」
と赤也に指摘された後だった。

強く照る夕日に目を細めて少し後ろを見ると、背後に伸びた影が視界に入る。
その長い影に、追い越される日はいつ来るのだろうと、ぼんやり考えた。



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