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午睡




不意に、蓮二の肩が動いた。
起こすような事は何もしていないので、自然と目が覚めたのかもしれない。
俺に背を向けてベッドに横たわる蓮二の上から覆い被さるようにして、顔を覗く。
しかし今度は、一ミリたりとも動かなかった。


ふと、無防備に投げ出された蓮二の四肢に目がいった。
露出がほとんど無い割に、体の線が浮き彫りになっている。黒いズボンの裾から覗く足首に掴まないように触れ、意味も無くなぞってみた。
すると、蓮二が反応を示す。曖昧に「う」と「ん」の中間のような声を出し、くすぐったさからなのか身を捩った。意識を取り戻したかはわからない。
けれど、蓮二の唇が俺の名前の形に動き、小さな声でそれを呟いた。
「蓮二」
不安定なベッドの上で覆い被さったまま名前を呼び返す。
それに応えるように、蓮二は俺の首に手を回して体を密着させてきた。
その勢いで体勢を崩し、手をついて安定を図る間もなく俺はベッドに倒れこむ。
喉仏のあたりを、黒く艶のある髪がくすぐった。
「蓮二」
「んん…」
猫と比喩すれば適切なのか。それを想起させるように、蓮二が俺の胸元に顔を擦りつける。
「…くすぐったいだろう」
そう言いながら、触り心地の良さを求めて蓮二の髪に指を絡ませた。
鼻腔をかすめる匂いに、その存在を再確認する。すると、眠りが浅かったのか、蓮二がもぞもぞと動き、顔を上げた。
「弦一郎…?」
語尾に疑問符を付加し、今度はちゃんと意識を持って蓮二が俺の名前を呼んだ。
「どうかしたか?」
「何で…ここに…
「…嫌だったか?」
「そういう事では…なくて、だな…」
「ああ、お前は俺にアパートの合鍵を渡していただろう」
「…あ…そうか…」
どうやら蓮二は、鍵を渡していたことを失念していたらしい。渡したのが五ヶ月も前で使ったのが三ヶ月前に一回だけだということを鑑みれば、無理も無いことだ。
「蓮二?」
口を半分開けたまま行動が止まった蓮二を現に引き戻す。
「弦一郎…」
蓮二が手をついて起き上がる。
「起きるのか」
「ぁ、ああ…今、何時だ?」
「……」
見覚えがあった。
蓮二が少し気だるそうにベッドに手をつき、俺に時間を尋ねる。
それは、一昨日前の朝の光景に等しかった。
ただひとつ違うのは、あの時は二人とも服を着ていなかったという事だけだ。
「…弦一郎…どうかしたか?」
「あ、ああ。なんでもない」
蓮二が俺の顔を覗きこむ。
「もう、四時だな」
夕焼けに蓮二が眩しそうに目を細めた。
「もう、そんな時間か」
「ああ。…夜は眠れそうにないな」
「そんなに長時間昼寝をするからだ」
「…弦一郎…?」
「…ああ」
蓮二の言葉の真意はそれだけでない事くらい百も承知である。
俺の方に体を寄せ、蓮二が俺の首に手を回したので、さっきのようにバランスを崩す前に押し倒した。
「弦一郎…」
「蓮二」
首筋を指でなぞり舌を這わせると、蓮二が僅かに声を上げる。
「ぁあっ…」
跳ねた体にスプリングが軋み、買い替え時だと告げていた。


end



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