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驟雨(R-18)




右を見る。何もない。
左を見る。斜め後ろに見慣れた横顔。
「蓮二」
ぼうっと歩いているところを不意に呼ばれたせいか、薄手の服に包まれた蓮二の肩が不自然に揺れた。
「どうかしたのか?」
俺の声に若干の心配を交えつつ、質問してくる。何故なのかと少し思案し、俺の声が無駄に真剣みを帯びていたせいだともう一度脳内再生して確認した。
「…いや、別に何もないぜよ」
「そうか」
数年前は蓮二の方が背が高かったが、今は1センチも違わないだろう。会話の度に見上げなければならなかった事実を突きつけられなくて済む。感謝すべきは、成長期か。


「暑いな…」
蓮二が呟いた。
珍しく雲が空に垂れ込めて太陽を覆い隠している今日は、いつもの何倍も蒸し暑い。
夏特有のかは分からないけれど、普段目にする真っ青な空は見えなかった。
その時、傘を手に持った人とすれ違う。
いや、まさか。
「今日、雨降るんか?」
「天気予報では10%だったぞ」
「そういえばそう言っとったな」
「夕立なら来るかもしれないが…」
「それならすぐ止むじゃろ」
「多分な」
そんな会話の直後。
周囲にいた人のうち、傘を持ち合わせていた一部の人間が傘を開いた。
ぽつぽつと、顔を水滴が濡らし始める。
「最悪じゃ…」
「天気予報なんて信用に値しないな」
今にも舌打ちしそうに顔を歪めた蓮二。舌打ちはしていないが、嫌悪感が露になる。
走る気概が雨の量に反比例して失せていった。
少し速度を上げて歩き、家路を急ぐ。


家に着いたとき、雨に打たれて全身がびしょびしょだった。
「災難だったな」
蓮二が、体に纏わりつく服から水を絞る。
細い体の線が浮き彫りになり、脇腹が見え隠れした。
けれど、ここで盛って二人揃って風邪を引くのは馬鹿らしい。
「風呂、入って来んしゃい」
「え?」
「風邪引いたらお終いじゃろ」
蓮二の頭にバスタオルを被せる。やっぱり、可愛い。
「仁王…お前は良いのか…?」
「どういう意味じゃ?」
「先に入らなくて良いのか?」
「でも蓮二が風邪引いたらどうするんじゃ」
「大丈夫だ。……っくしゅ」
蓮二がくしゃみをした。
俺が風呂に同時に入るという折衷案を思いつくのとほぼ同時だった。
すると、その心中を見透かしたかのように蓮二が口を開く。
「仁王…」
「ん」
「…一緒に、入れば…その…」
控えめな上に段々とフェードアウトしていく蓮二の声は、最後までは聞こえなかった。
「ああ、それで解決じゃな」
そう言って風呂場に向かう。
水滴を滴らせ、全身濡れそぼった蓮二が後から着いてきた。
一緒に風呂など入ろうものなら九割九分九厘の確率で襲われることを、蓮二は分かっているのだろうか。


「今更、隠す理由なんて無いじゃろ」
「…でも…」
「早うしんしゃい」
俺に躊躇いが無くても、蓮二が服を脱ぐのに幾らか手間を要した。
半ば強引に浴室に押し込み、承諾を得ずに体を洗う。
「っや、くす、ぐったいっ…」
「大人しくしときんしゃい」
「ん…」
時折肩を揺らしながらも大人しくなった蓮二。
やり場に困ったのか、その手は行儀良く膝の上に鎮座している。
「蓮二」
「仁王…」
泡だらけの蓮二の体を後ろから湯で流し、抱く。
「感じとるんじゃろ、さっきから」
「やつ…そんな…」
否定すれば嘘になる。蓮二は、否定できなかった。
「ほら、ここ」
白い泡にまみれた胸の突起を指で抓む。
「あぁっ…に、仁王…」
風呂場の小さなイスに座る蓮二が体を捩り、その脚が床を滑る。
「脚、開きんしゃい」
どうせ、隠しきれていない。
「嫌だっ…」
「なんで嫌なんじゃ?」
「仁王っ…」
蓮二が首を横に振る。
恥ずかしいだろう事は察しがついた。
「もう何度も見とる」
「……」
蓮二が、くっついていた膝を少し離す。
焦れったくて、脚の間に手を入れて無理矢理大きく開かせた。
「相変わらず敏感じゃな」
脚でも隠し切れていなかった蓮二の陰茎が晒される。それは既に勃起し、透明な液体が流れ出していた。
「やっ、んんっ…」
「何がそんなに気持ちよかったんじゃ?」
「ちがっ、そんな、じゃ…」
「じゃあ、襲われるの期待してこんなにしとったんか?」
「んんっ…」
カマを掛けたらどうやら図星だったようで、蓮二が俯いた。
「耳、真っ赤じゃな」
「はっ、ぁうっ…」
蓮二の耳に下を這わせ、中に差し入れる。
彼の乳首を弄る(まさぐる)手は止めない。
余裕を失って息を乱す姿を鏡経由で見つめ、ほくそ笑む。
「蓮二」
「に、にぉっ…み、みっ…やめっ…」
耳も性感帯らしい。
止めてと言われて止めてやるほどの優しさは備わっていないので、行為を続行する。
時折息を吐くと、蓮二の体が揺れた。
「ぁぁっ、やぁっ…」
予告も何もせず、蓮二の狭い後孔に指を挿し入れる。
「んあっ、ああっ」
「そういえば」
「んんっ…」
「昨日、風呂場で何してたんじゃ」
「やっ…なに、も…ああぅ…」
「嘘吐きはお仕置きじゃよ」
お仕置きなんて、ただのハッタリなのだけれど。
昨日の夜遅く、この場所。入っていたのは蓮二一人だった。
最初はシャワーやイスを動かす音しか聞こえなかったけれど、途中から必死に声を抑えるような音が混じって聞こえてきた。他にこの家の風呂を使うのは蓮二しかいない上に自慰に耽っていたのは明白だったけれど、咎める理由も言う必要性も見当たらないので知らないふりをしておいたのだ。
「なん、でっ…ゃ、だっ…」
「聞こえたもんは仕方ないじゃろ。昨日もこんなことしとったんか?」
一人で、と付け加える。今の俺は相当意地の悪い顔になっているに違いない。
「に、にお、がぁっ…」
「俺が?」
耳元でそう尋ね、蓮二の後孔に入れた指でその奥を掻く。どこが感じるかなんて知り尽くしているから、指は的確に刺激を与えて快感を誘う。
「にぉ…がっ、してくれ、なかっ…たからっ…」
記憶と蓮二の発言がかみ合わない。昨日は、まだ日が高い内から蓮二を押し倒した記憶がある。相当な健忘症でもない限り、彼も忘れはしないだろう。
「蓮二」
「そうじゃ、な、いっ…あれ、じゃっ…たり、ないっ…」
途切れ途切れながらも、真意を吐いた。
確かに昨日は、回数で言えば一回だけだ。普段より少ない。
「随分と淫乱になったもんじゃな」
「んんっ…あっ、ああっ」
先程から蓮二の前立腺を指で何度も指先で引っ掻いたり押したりする行為を会話と平行している。
その刺激に蓮二はじっとしていられず、イスに座るのもままならない。
壁に背を預けるようにして床に座らせ、続行しようとする。
「におっ、はあっ、んんっ、い、れてっ…にお、のがいいっ…」
「その体勢じゃと壁に頭ぶつけるぜよ」
「はや、くっ…いれてっ…」
泡のまだ残る床に蓮二が四肢をつき、四つん這いになった。
「ええよ」
陰茎を後孔に添え当て、蓮二の腰を引き寄せて奥まで一度に挿入した。
「んああっ!!…はあぅっ…にお、っ…」
蓮二の顔をのぞくと、求めるような視線とかち合う。
何も言わず、腰を打ち付けた。
蓮二の腰を掴んで、奥を突いては引くのを繰り返すと、内壁の締め付けが強まり、蓮二の声が大きくなっていく。
「ひゃああんっ!!んあっ、ひ、ぁあっ…んうっ、ぁあっ…!!」
「自分でいじるのより気持ち良いじゃろ」
「んっ、きもち、いぃつ…にぉっ…も、っと、おくまでっ…してぇっ…!!」
「ここじゃろ?蓮二が一番好きな処」
内側が抉れるくらい、何度も最奥を突いた。
その度に後孔はピクピクと収縮を繰り返す。
「やっ、そこっ…ぁあんっ、ああっ…ひううっ!!」
体を支える力など残っていない蓮二は、ほぼ床にうつ伏せの状態になっている。
「もう、イきたいんじゃろ?」
「はあっ、ぁうっ…も、いくっ…やっ!!ぁあっ、あ、あ…」
「我慢せんでええ」
「におぉっ…ひゃうっ…あっ、ああっー!!」
蓮二の後孔がキュウッと締まった。
勃起させた彼の陰茎から、精液が放たれる。白いタイル張りの床に飛び散った。
「溜まってたんじゃな」
「んんっ…まだっ…シたいっ…」
「そうか」
そしてまた、ピストン運動を再開する。
たまに不規則に抜き差しすると、蓮二の後孔はきゅっと締まった。
「はぁんっ、ああっ、まさ、はるっ…ひああんっ!!」
「蓮二…」
繋がった部分からは粘着性を帯びた液体の音がぐちゃぐちゃと鳴り、肌がぶつかる音と共に欲を掻き立てる。
さっきイったばかりの蓮二の陰茎はまた起ち上がり、精液の零れた床に先走りをばら撒いた。
「あああっ、ま、さ…はるっ…!!」
「蓮二…」
普段もこれくらい名前を呼んで欲しいという願望は閉じ込めておく。
代わりに、蓮二の奥を貫くように腰を激しく打ちつけた。
同様に名前を呼んだ自分の声に、上擦りを感じた。
「やぁっ、だ、って、きもち、いぃっ…ふぇあっ、ひゃぁあああっ!!!」
また陰茎が白濁を吐き出す。
幾ら拡張しても狭いままの後孔の締め付けに、俺も限界に達した。
ドクンと、蓮二の中で射精する。
「あ、あ…に、におぉっ…」
肩で息をする蓮二に、言った。
「まだ足りんか?」
「んん…」
蓮二は息が整わずに伏したまま、首を横に振る。
「動けるか?」
「んっ、無理、だ…」
「どっちにしろまた体洗わんといかんな。二度手間じゃ」
「に、仁王…」
「ん?」
まだ濡れている蓮二の体を抱き起こすと、首に手を回されて抱きつかれた。
「仁王…」
「甘えたがりじゃな」
「…そう、だな」
やけに素直だ。
浴室に、さっきまでとは打って変わって静寂が訪れる。
外から聞こえてくるであろう雨がアスファルトを叩く音は、耳には入ってこない。
「雨、止んだみたいじゃな」
「ん、そうだな」
あんな時に降り出してこのタイミングで止むとは、些か、都合が良すぎるのではないだろうか。




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