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前戯(真柳)




「もう、いいんだ」
「…蓮二」
こうして俺が拗ね始めて、半時間は経っている。
宥めるように名前を呼ぶ弦一郎は、万策尽きたようだった。


事の発端は、三日ほど前に遡る。
今日が6月7日だから、3日前は4日だ。
何が言いたいのかといえば、その日が俺の誕生日だったことだ。
別に、多忙である彼に付き合い始めてから三年連続でそれをスルーされたことに不服がある訳でもない。
そんなことは百も承知であるその上で、この状況に至る。


更に遡れば6月1日。
「そういえば、今年は誕生日覚えてそう?」
幸村にこう聞かれた。
「いや、全く」
こう返せば、彼は話に食いついてきた。
「蓮二は?いいの?」
「もう慣れたよ」
「じゃなきゃ真田と3年も続かないか」
「かもしれないな」
「……」
「どうかしたか?」
右上を見つめる彼の視線の先には何があるわけでもなく、その行動はただ、考え事をするときの癖である。
それを数十秒続け、彼は再び口を開いた。
「蓮二はね、優しすぎるよ」
「…そうか?」
「一回くらい、我侭言って真田を困らせてもいいと思うけど」
別に彼が誕生日云々のことを意識した訳でもなく、何かを示唆したわけでもないその一言が決定打となり、冒頭に直結する原因を作った。


「去年も、一昨年もそうだったじゃないか」
「蓮二…」
「誕生日だけじゃない。大切な事だって、全部忘れてただろう…?」
「それは…」
「ずっと、俺だって我慢してきたんだ…」
一部の脚色を交えながらも、俺の言葉に虚言は無い。
彼には優先させるべきことがあり、自分は二の次であると。
「…蓮二」
「っ、弦一郎…?」
後ろから覆いかぶさるように抱きしめて来た弦一郎。
その意図が読めずに動揺した。
「済まない。お前に我慢を強いていることは分かっていたが…そんなに辛い思いをさせているとは…」
本気だ。
そう思った。
最初は冗談、悪戯で終わるだろうと思っていたけれど、今となってはそうはいかない。
「弦一郎…」
「蓮二…」
なんと言えば良いのか。
嘘を吐いた訳ではないけれど、なんとなく罪悪感がある。
すると、景色が逆転し、弦一郎が視界に入った。
その原因が突然彼に組み敷かれた事だと理解するのに、一秒も要さなかった。
そしてあまりにも真剣な弦一郎の目に、もう何も言うまいと決めたのだった。



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