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とある居候の小さな話(仁柳)





「参謀の髪はいつ触っても心地ええのう」
「そう、か?」
「さらさら、じゃな」
「…くすぐったい」
表面上は言わないけれど、仁王にそう言われると悪い気はしない。
日曜日だから、とか訳の分からない理由で膝枕を強要し、勝手に寝転がって来た事は水に流してやっても良いかもしれない。
そう思ったとき、仁王が突然起き上がった。
「仁王?」
「あれ、忘れとった」
「何を…?」
「んー、蓮二は気にせんでええ」
仁王はそれから俺の頭に手を載せ、「ちょっと、待っとってな」と残して部屋を出て行った。
そして今に至り、俺は手持ち無沙汰な状態が続いている。
彼は10分経っても戻って来ず、隣の部屋から1回だけ、重いものを勢いよくを落としたような音が聞こえた。
壁の薄いこのアパートでは、それだけでも近隣の迷惑だろうに。
と、その時。
仁王の電話が鳴った。
放置するわけにもいかない。
「…仁王、電話」
「あー、出てくれんか」
「でも…」
「適当に用件だけ聞けばええから」
「…分かった」
受話器を持ち上げて、いつもと同じように応対する。
「はい、柳…」
柳です、と言いかけて気づいた。
これは自分の家の電話じゃなく、仁王の家の電話だ。
「え…?」
電話の向こうの相手は掛け間違えたと思っているのか、困惑した声が聞こえてくる。
「…仁王です」
部屋から出てきていつの間にか俺の隣にいた仁王。
小さく笑って俺の手から電話を抜き去り、自分の耳に当てた。


「蓮二」
さして長い会話もせずに電話を切り、仁王が俺の横に座った。
「仁王…」
「柳って誰、って聞かれたんじゃけど」
「…間違えたんだ」
「うちの居候じゃって言っといた」
「居候って…」
「何じゃ、居候じゃ不服なんか?」
「そうじゃなくて…」
わざわざ居候だなんて言わなくても、たまたま来ていたと言えばいいのではないか。
「蓮二はちょこちょこ家帰っとるから、まだ同居人に格上げは無理じゃな」
「…居候で結構だ」
「まあ、いずれは一緒に住んでもらう事になるんじゃけどな」
仁王の手が俺の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
結局何を考えていようと見透かされている、そんな気がした。

end



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