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The day when it can catch up




何回、こうして彼を見上げたのだろう。
柳さんとの付き合いはさして長いわけではないけれど、話す時に俺が目を合わせるために上を見上げる回数は多いはずだ。
それが身長差のせいであるというのは言うまでもなく、いつまで経っても埋まらないその差にもどかしさを感じる。


「…柳さん」
呼びかけという意識のない呟きを発した。
「ん?どうした?」
けれど、そんなに距離を隔てていないので柳さんの耳はしっかりとそれを聞き取ったようだ。
本に向けられていた筈の彼の意識は、本当にそこにあったのだろうか。
柳さんが本から顔を上げた。とは言っても上に目線を変えたところで俺はおらず、彼は一旦上を見てまた視線を下に戻した。
「……」
「…どうかしたのか?」
繋げる言葉も思い浮かばず、無言のままの俺に怪訝と心配を混ぜた様相で柳さんが声をかけた。
「…柳さんは、」
『柳さんは』と取り敢えず口にした言葉の続きの候補がいくつか脳内で浮かび上がる。ロクな物がない。
「日吉…?」
「…身長、何センチですか」
「181」
即答された。
「…9cm」
「そのくらい、すぐに埋まるよ」
「柳さんも、伸びるでしょう」
「中学で伸びすぎたからな。とっくに成長なんて止まってるだろうな」
「そうですか…」
「来年の今頃には、俺がお前に見下ろされているかも知れないな」
柳さんが笑い、太陽に反射した髪が揺れる。
一年間で9cmも伸びるかは分からないけれど。
「それは…」
「嫌なのか?」
嫌ではない。けれど、想像し難い。
「俺は、早く抜かしてほしいんだがな」
本気なのだろう。嘘を吐くはずがない。
けれど、当分はこの状況に甘んじてもいいかも知れないと、度々思うもどかしさは許容範囲に収めておいた。
「…まだ、先の事ですよ」
「なら、楽しみにとっておくよ」
そう言った柳さんに、この身長差では立ったままでキスをするのに不便だと言う事を告げるのは無駄だろう。
胸三寸に納めておこう。


end



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