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追懐 (ブン柳)





丸井が腹が減ったと文句を垂れ流すのは、彼のお菓子の匂いがする部室である。
「やーなぎー」
「…丸井」
「腹減った」
「お前は二言目にはそれを言うな」
「いいだろぃ。つか、誰もいねえじゃん」
「ああ、帰ったぞ」
「へえ…」
興味が無いような顔をして、丸井が立ち上がった。
それから壁際にいた俺の方へ来て、手首を掴んだ。
「ん、」
「柳の手って綺麗だよな」
「そう、か」
「白いし、細いし。一年のとき、女子かと思った」
「…心外だな」
誉められているのか、それとも。
それが分かっていてもそうでなくても、なかなか複雑な気分である。
「蓮二」
「っ…丸井…」
「ん?」
背伸びをしたのか、俺の耳元で丸井が名前を呼んだ。
「…何でもない」
「天邪鬼だよな、柳」
「…天邪鬼で結構だ」
ここで天邪鬼と言うのは合っているのか分からないけれど、俺は捻くれた返事を返す。
それから多くの時が過ぎても、背伸びをした丸井のつまさきがかなり不安定だったことが、未だに頭をよぎる。
そこにどんな感情があるにせよ、ただ、懐かしいのだ。


end



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