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浮揚 (仁柳)




「暇じゃなー」
「…寒い」
卒業式が終わった後の、誰もいない屋上。
仁王が吹くシャボン玉が、風に吹かれて消えていく。
「まさか卒業式まで途中で抜け出すとはな」
「あんな話ばーっか聞いとってもつまらんじゃろ」
「だろうな。丸井が寝ていたよ」
前方の席で眠そうに揺れていた特徴的な髪色の頭を思い出し、笑いがこぼれる。
「お前さんとは大違いじゃ」
再び生産されたシャボン玉が舞い上がって消えた。
「参謀」
「何だ?」
「好きな奴とかおったんか?」
「そっちこそ」
「おるよ」
「……」
予想外の一言に尽きる。
「そう、機嫌悪くしなさんなって」
「悪くなんかない」
「参謀は意地っ張りじゃの」
再び沈黙。
意地っ張りで結構だ。
そう言おうとしたけれど、言葉がつっかえた。
「…誰が好きか、聞かないんじゃな」
「聞いたところで俺が得をする訳じゃない」
「損もせんじゃろうけどな」
本音を言うなら、今一番知りたいことがそれだった。
「そないに心配せんでも」
「え?」
「俺が好きなんは蓮二だけじゃ」
何処かで期待していた答。
ごく自然に呼ばれた名前が、頭蓋で反響する。
「…聞いとる?」
「…ああ」
「じゃあ次、参謀」
「何がだ?」
「好きな奴」
ここまで来て聞くのは多少卑怯なんじゃないかと思ったが、口を開いた。
「…仁王。仁王が、好き、だ…」
「耳が真っ赤じゃの」
「誰のせいだと…」
俺が背を向けると、仁王が小さく笑う。
「蓮二」
顔だけ彼のほうへ向けて振り返った。
何かを期待している彼の顔から少し視線をそらす。
「…雅治」
「つかまえた」
子供か、お前は。
そう言いたくなる様な言動をした仁王に後ろから抱きしめられた。
その勢いで立っていた体がバランスを崩し、コンクリートに手をつく。
「仁王…!」
「絶対、離さん」
「ああ」
「好いとうよ」
「…俺もだ」
目に付いた仁王のシャボン液とストローを拝借し、シャボン玉を吹いてみた。
それを追って上空を見ると、晴れていることに気づく。
真っ青な空に、幾つものシャボン玉が浮かび上がった。



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