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三椏 (幸柳)




重要な言葉というものはある訳で。
それを口にするだけでもタイミングを考えなければいけない。


その日は、3月5日だった。
更に言うなら精市の誕生日だったけれど、朝から一日中ぶっ通しで部活。
しかも彼は、それを自覚しているのかすら分からない。
「おめでとう」の一言さえ言うのも憚られる。
そんな事を考えている内に、日が傾き始めていた。
「蓮二」
「精市…」
「何してんの。着替えて帰ろう」
「あ、精市っ…」
慌てて、声が上擦った。
「何?」
精市とは帰り道が違う。
ここで言い損ねたら、機会は無いと思った。
「…誕生日」
「うん」
「おめでとう…大した事は出来ないが、その…」
「ありがとう。皆忘れてると思ってた」
精市が嬉しそうな顔をする。
最後に彼のこんな顔を見たのは、いつだろう。
それくらい、久し振りだった。
「…蓮二」
「何だ?」
「今日、家来る?」
「え?」
「早く帰ろう」
そう言って歩き出した精市の背中を追う。
夕陽が、辺りを金色に染めていた。



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