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普遍的厭世観




突然押し寄せる不安ほど、怖いものは無いと思った。


「蓮二は、何が怖いんだ?」
思いもよらない台詞に、思考回路が一時停止というありがちな行動を展開する。
が、すぐに通常作業を再開し、弦一郎の言葉の意味を反芻した。
こわい、もの。怖いもの?
何だ、それ。
「弦一郎…?」
「お前にも怖いものがあるか、訊いている」
冗談か否か、問おうとして止めた。
弦一郎の目があまりにも真剣すぎる。
「…弦一郎」
情報を垂れ流し続けた結果、雑音としてしか役割を果たせていないテレビのニュースを消し、本を置いた。
「蓮二…」
「…何だと思う?」
微かに揺れた弦一郎の背中に抱きつき、彼の匂いのする首筋に顔を埋める。
唐突に不安が湧き上がった。
「分からないな」
「…弦一郎、が…いなくなるのが怖い」
絞り出した声は、ほとんど掠れたように思えた。
「俺が、か?」
信じられない、といった声音で彼が言う。
その、表情が見えない。
「…保証なんて、無いからな」
「有り得ん」
「…先の事なんて、分からない」
守れない約束は、しない。
「蓮二、俺はお前を一人にしたりはしない」
断言しよう、と弦一郎が一瞬の間をおいて躊躇い無く言った。
「…ずっと、か?」
「ああ」
「…死ぬまで?」
期待した答えは、たった一言でも構わない、肯定の意だ。
そして返って来た言葉がそれ以上だった事は、言うまでも無い事だろうか。
「どちらが死のうが、俺はお前を手離すつもりは無い」
頬が弛緩する。
「弦一郎…」
「何だ、蓮二」
「…俺で、いいのか…?」
俺なんかと、一緒にいて。
ありがちな台詞を口に出した。
「俺には、お前しかいない」
弦一郎の迷いが無い言葉も、多少使い古された感じが否めない。
「…何処かで聞いた台詞だな」
「それ以前に本心だ」
「…なら、離れないぞ」
弦一郎に回した手に、ぎゅっと力をこめる。
すると腕を掴まれたついでに引っ張られ、体勢を崩した。
「っ、弦一郎…」
そして自分が弦一郎に抱き竦められていると自覚するのに要した時間は、さほど長くない。
「蓮二…」
耳元で呟かれている自分の名前に、どうしようもなく俯いた。そして、言った。
「好き、だ…」
どうしようもなく、好きだ。
そしてどうしようもなく、怖かった。


end
一ヶ月くらい前に書いてうpし忘れてたやつ。




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