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仕返し




空腹と渇きで、目が覚めた。
昨晩の名残か、頭ががんがんする。


重い体を起こし、隣で寝息を立てる柳さんに目をやる。
彼は、一向に起きる気配がない。
別に起こす気はなかったので、咽の渇きを潤すために台所に向かおうとした。
が、服を着ていないことに気付く。


面倒臭い、と溜息をつき、壁のほうで丸まっている服を引き寄せた。
服を着て立ち上がると、少し立ちくらみがした。


台所の蛇口をひねって水を出し、コップに注ぐ。
でもそれだけの動作さえも億劫で、水が流れては排水溝に吸い込まれて行くのを無意味に眺めていた。
柳さんなら、勿体無いと言いそうだ。
そう思い、蛇口をさっきとは反対方向にひねって水を止める。


水を飲んでも渇きはあまり緩和されず、そのまま部屋に戻った。
柳さんは、まだ寝ている。


「柳さん・・・」
起こさないように隣に座る。
汗ばんでいる彼の寝顔を見つめていると、何をするともなくただ時間が流れた。


彼もまた俺と同じように服を着ていなくて、布団の隙間から肌が覗く。


その白い肌に赤い痕が見え、昨夜の出来事が一瞬にして甦る。


息を乱し、恍惚とした表情を浮かべる柳さん。普段は決して見ることのできない姿。


それが俺にしか見せない、俺だけが知っている柳さんだと思うと、ゾクッとした。



「んっ・・・ひ、よ・・・」
起きたんだろうか。いや、寝言みたいだ。


「何ですか、柳さん」
「んん、ひ、よし・・・」
無意識に、生唾を飲み込んでいた。
朝っぱらから、こんな。
それを知る由もない柳さんの寝言は、まだ続いていた


「・・・す、き・・・」


「柳さん・・・」

寝返りを打つ柳さんの髪に触れてみた。
すると、眠りが浅かったのだろう、細い肩が跳ね、柳さんは目を覚ました。


「ぁ・・・」
「日吉・・・」
柳さんはだるそうに上体を起こすと、俺を見て少し笑い、また横になった。


「今、何時だ?」
「11時半です」
「・・・もう少し寝る」
「もう昼ですが」
「体が動かないんだ」
「・・・でしょうね」

布団をすっぽり被ろうとする柳さん。と、それを引き止める俺。
「ちょっと待ってください」
「何だ?」
「・・・俺も、好きです」
「・・・“も”・・・?」
「ええ。寝言の返事です」


柳さんの耳元で言うと彼は布団を被り、小さな声で


「・・・してやられたよ」


と言った。


その直後、柳さんは本当に寝てしまった。


「柳さん?」
「・・・・・・」
応答なし。


彼が起きるまでにはまだ時間がかかるだろう。
そう思った俺は空腹を紛らわすために台所に向かった。


ちなみにその3時間後、目を覚ました柳さんの第一声は、


「・・・お腹空いた」


だった。

end



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