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1 赤点と参謀とサボリ魔




「柳さん?」
振り返ると、赤也がいた。
三年の教室まで、何をしに来たのだろうか。
「赤也、どうしたんだ?」
「…これ…」
少し躊躇いながら赤也が差し出したのは、テストの解答用紙だった。
教科は英語。
嫌な予感しかしない。
「…赤也…」
「…スンマセン…」
点数は、赤点だった。


赤也が今日と同じように教室に来たのは、テストの三日前。
彼はその前のテストでも最低点を叩き出して弦一郎に説教を喰らったばかりだというのに、またギリギリになって「英語を教えてほしい」と言った。
あまりにも必死な顔で頭まで下げる赤也が可愛く思えてきて「いいよ」と答えると、彼は満面の笑みでこう言った。
「マジっすか!?絶対五十点取るッス!」
確かに、そう言ったのだ。


そして今、俺の手元にあるテスト用紙に赤で殴り書きされた数字は、彼が言った点数の半分にも及ばない。
「…報われないな」
「…で、でも、この前よりは上がったんスよ…?」
「三点、な」
「そ、それで…」
「再試か」
先回りして言うと、赤也が気まずそうに目を伏せる。
「…そうっス」
「だから、勉強しろと言ってるんだ」
「…スンマセン…」
目の前の十五という数字から目を逸らして、赤也は俯いた。
「教えようか?」
「いいんスか?」
前にも見た心底嬉しそうな笑顔を浮かべ、赤也が言う。
…可愛い。
赤也の言葉に俺が頷くと、彼はこう続けた。
「柳さん、本当に、絶対、五十点取るんで」
「ああ。そのくらい取って貰わないと困る」
その時チャイムが鳴り、赤也が慌てて教室から飛び出していく。
「参謀、顔が緩みっ放しじゃ」
赤也が来てからずっとじゃ、と付け足し、仁王が笑った。
「…いつからいたんだ?」
「用事があったんじゃ。でも、赤也に先越されたナリ」
「そうか」
「参謀、本当に赤也のこと可愛がっとるんじゃなー」
「…教室に戻ったほうが良いぞ」
「プリッ」
本当は何の用も無かったであろう仁王が歩き出した方は、彼が戻るはずの教室ではなかった。
また屋上でサボるのかと思いきや、彼は階段を降りていく。
でも、どっちにしろサボることに変わりは無いらしい。
それと擦れ違いに逆の階段から教師が上って来て、B組の教室に入っていった。
どうやらサボり魔は、何とか逃げ果せたようだった。


続きます。



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