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カーテンに隠れてしていたこと (きほう様より)




「あー!もう無理!」
俺が、大きな声を出すと、目の前で本を読んでいた柳先輩が、顔を上げた。
その反動で、前髪がサラサラと揺れて、綺麗だ。
思わずみとれてしまう。


「もう、か?しっかりしろ」
柳先輩の眉間にシワが寄る。
「だーって無理なんスもん」
「どのくらい終わったんだ」
「このくらい」
「まだ最初じゃないか」
開いたノートを見せると、それを覗き込んだ柳先輩は、ますます顔をしかめた。
けど、俺はそれどころじゃない。
覗き込んできたことで柳先輩との距離が近くなり、良い匂いが香ってきたから。




今日は、英語のテストで赤点を取った俺のための勉強会だ。
今日は、というか、昨日も一昨日もだけど。
そして明日も。
週末に追試があるから、そのために今週は毎日教室に残って、柳先輩に英語を教えてもらうことになったのだ。


正直、大っ嫌いな英語を毎日勉強するとか、苦痛でしかない。
でも、大好きな恋人の柳先輩と一緒なら話は別。


しかし、ここで問題が一つ。
放課後の教室に、恋人と二人きり。
しかも、その恋人は綺麗で色っぽくて、加えて俺は思春期真っ盛り。
触りたい、キスしたい、色々したい。
そういう欲求があるわけで。
なのに、それを我慢するのは、かなり苦痛である。


「柳せんぱあ〜い…もう無理。帰りません?うちいってヤッ…」
言いかけた俺の頭を、柳先輩が、持っていた文庫本でピシャリと叩いた。
「…冗談っスよ」
下唇を突き出して抗議の声を上げつつも、俺は、しょうがなく再びノートに向かった。


上から、ため息が聞こえてきた。
「せめてここまでは終わらせろ」
「えー…多い…」
「そこまで終えたら、うちに来ないか?都合よく、今日は誰もいないんだが…やることやるか?」
柳先輩が、最高に艶っぽくわらう。
「超頑張るっス!」
急にやる気を出した俺の上から、くすくすという笑い声が降ってきた。


柳先輩は、こうやって、俺をコントロールするのが得意だ。
飴と鞭っつーの?
ちょっと鞭が多い気もするけど。
それに簡単に引っ掛かっちゃうのは、俺が柳先輩を大好きだからで、決して俺が単純だからではない。たぶん…!



今日も、昨日と同じく勉強会。
職員室に日直日誌を届けに行っていた俺は、いつもより遅くなってしまったから、廊下を急いで走っていた。
昨日の柳先輩、可愛かったなあ、とか考えながら。
言っとくけど、ベッドでは主導権は俺にあるから!


「すんませ〜ん…職員室行ってて遅く…」
ドアを開けると、そこには、いつもの背筋の伸びた背中は見えなかった。
代わりに見えたのは、机に顔を預けた柳先輩。
こちら側に向けられた顔は、微動だにせず、規則正しい寝息が聞こえている。
寝てる…。


柳先輩を起こさないように、慎重にドアを閉め、近づく。
しゃがんで、目線を合わせてみる。
この距離まで来ても、柳先輩は起きない。


…睫毛長い。肌白い。
夕日が、その白い肌を朱く染めている。
カーテンがはためく。
俺は、吸い込まれるみたいに、薄く形の良い唇に自分の唇を重ねた。
それでも起きない。
調子に乗って、また、重ねる。
軽いキスを、何度も何度も繰り返す。
「ん…」
軽く唸った柳先輩の眉間にシワが寄る。
でも、止められない。
俺の唾液で、微かに濡れた唇が色っぽい。
貪るみたいに、その唇に食らいつくキス。


そのキスの後で、柳先輩は、ようやく目を開いた。
そして、何が起きていたのか理解したのか、がばっと起き上がる。
「…っあ、かや…!?何を…!」
柳先輩は、驚きに、目を見開いて俺のことを見た。
それを見て俺は、へへ、と笑う。
「しっかりしてくださいよっ。せんぱい」
俺の言葉に、柳先輩は、困ったような顔で微笑んだ。
その耳が、後ろの夕日ぐらい赤くなっているのを見て、俺はとても満足して、満面の笑みを返した。


俺は、一度で良いから、柳先輩を負かしてみたかったのだ。
だって、俺はいつだって負けっぱなしだから。





(さあ、どっちの勝ち?)



「シスタエンブラザ」のきほう様から999hitリクで書いて頂きました!
赤也が「先輩」呼びとか可愛すぎる・・・!
きほう様、ありがとうございました!!



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