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幸せ
「うまくいってんの?」
部活中、いきなり精市に訊かれた。
「何がだ?」
「赤也と」
「まあ、な」
「ふーん。あ、こないだ聞いたんだけど」
「何だ?」
「もうヤったって本当?」
「・・・・・・」
流石と言うべきか、情報が早い。
誰が喋ったんだろうか。
「蓮二、本当?」
「・・・あながち間違いではないな」
「へー。っていうか、赤也もよく今まで我慢したよね」
「たった三ヶ月じゃないか」
「俺、絶対無理だと思ってたんだけど」
「精市、そういう予想は立てなくていい」
「仁王と賭けてたんだよ、百円。あーあ、もってかれちゃった」
「それは残念だったな」
「まあ百円だし、いいんだけど」
「・・・だろうな」
「次は十円で賭けるよ」
「結構だ」
コートに目をやると、丁度練習が終わったところらしく、赤也がこちらに走りよってきた。本当に、可愛い奴だと思う。
「柳さーん」
「何だ?」
「呼んで見たかっただけっス」
「そうか」
「あ、何で笑ってんスか幸村部長」
「まさか、蓮二と赤也がくっつくとはね」
精市が笑いながら答えた。
「精市はどうなんだ?」
「ああ、真田?」
「あの副部長が幸村部長と付き合ってることのほうがまさかっスよ」
「だろうね」
肩をすくめて答える精市に、赤也が興味津々で続ける。
「どっちから告白したんスか?」
「さあ・・・別に、ないよ。本当になんとなくだったから。そっちは?」
「赤也だ」
「やっぱり。じゃあ、誘ったのは?」
「赤―」
「柳さんッス」
何を言うかと思えば、ありもしないことを。
「あぁ、そうか。誘い受け?」
「精市!」
「でも嘘じゃないっスよー。だって柳さ―」
「赤也!」
赤也の口を手で塞ぐ。
溜息を吐くと、精市が笑っていた。
そういえば、さっきからずっと笑顔だ。
原因は、今コートの中でラケットを振り回しているあいつだろう。
「んーっ、んんんっ!!!」
「あ、済まない」
息が出来ないらしい赤也。
そういえば、口を塞ぎっぱなしだった。
「っぷはっ・・・柳、さん、苦しい・・・」
「・・・済まない・・・」
「あ、怒ってないっスよ?」
「そう、か」
そのとき、遠くで呼ぶ声がする。
「蓮二!赤也!」
弦一郎だ。
コートに入れという意味だろう。
「行かないとまずいっスよね」
「そうだな」
―幸せだなあ―
コートに歩き出した赤也と柳の後ろ姿を見つめながら幸村が呟いたその一言は、大空を吹き抜ける風に乗って舞い上がった。
ある晴れた日の、小さな幸せ。
end
Novel
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