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春一番(65000御礼赤柳)




目を開けると、そこはベッドの上だった。
至極当然のことではあるが、このベッドは俺のものではなく、赤也のものだ。そしてその赤也は、まだ俺の隣で寝息を立てている。生意気を言っても、まだ寝顔は幼い。
ふと、昨晩のことが甦る。
あの時俺に覆い被さっていた赤也と、今眠っている赤也が同一人物とは到底思えない。しかし、彼は俺より一つ年下の後輩なのだ。そう考えると、眠りこける赤也が急に愛しく思えて、頭を撫でた。

「……やな、ぎさん?」
「赤也…?」
どうやら起こしてしまったらしい。赤也は、ゆっくりと体の向きを変えた。
「起きてたんすね」
「ついさっきからだ」
「今何時っすか」
「……十時半だ」
と、そこまで会話を交わしたところで、赤也が跳ね起きた。
「柳さん!」
「どうした?」
「今日!約束!」
「……何かあったか?」
まだ頭が寝ぼけているのか、単語を連発されても何も思い出せない。すると赤也はそんな俺を見兼ねたのか、こう言った。
「ほら、柳さん言ってましたよね。あの映画見たいって」
「…映画……ああ、思い出した」
確かに、面白そうだと赤也に言った覚えはある。が、それは先月のことだし、もとより、具体的に見に行く約束なんてしただろうか。
「で、俺言ったじゃないっすか、じゃあ見に行きましょうって。忘れてたんすか?」
「……その約束が、今日なのか?」
「…た、多分……?」
段々と自信を失っていく様に、つい吹き出してしまう。怒られるかと思ったが、赤也も脱力したように笑った。
「なんか、俺もよく分かんなくなってきました」
「…きっと、お前が俺に言おうとして忘れていたんじゃないか?」
「えー。俺、言ってなかったっすか?」
「忘れた」
「じゃあ、来週の日曜にしません?」
「そうだな」
「今度こそ忘れないで下さいよ」
念を押す赤也に俺も軽く笑い、口を開こうとする。が、出たのは言葉ではなくくしゃみだった。
「っ、くしゅ、」
「大丈夫っすか?風邪?」
「平気だ。冷えただけだろう」
「あー…服着ないで寝ちゃったから」
「取ってくれないか。そっちにまとめて服を置いたはずなんだ」
「はい」
「ありがとう」
手渡されたシャツに袖を通すと、ひんやりとした感触が肌に擦れた。そういえば赤也は、既に服を着ている。きっと、起こすまいと、あえて俺に服を着せなかったのだろう。そして代わりに、このタオルケットを掛けたと思われる。
「あ、俺ちょっと下行ってくるっす」
「ああ」
赤也がベッドから降り、立ち上がる。
「柳さん」
「ん?」
呼ばれて顔を上げると、その直後、頬に赤也の唇が触れていた。
「赤也っ…」
驚く俺をよそに、当の本人は何事もなかったかのようにドアへ向かっていく。が、ドアを閉める時にしたり顔で笑った。
俺は、バタンという音と共に取り残される。
薄ら寒い室内で、俺の頬だけが少し熱を持っていた。


end

キリリクありがとうございます。
遅くなってすみません…。
気に入って頂けたら幸いです。

この度はありがとうございました…!



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