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代価は一つ




2月14日。
前後に視線を受けながら、俺は部室の前に立っていた。
正面から俺を見上げるのは確か、幸村と同じクラスの女子だ。5月から数えて6回ほど、図書室で出くわした記憶が新しい。

彼女に部室前で引き留められ、もう数分が経過しようとしている。
のぼせ上がったように耳まで真っ赤にして「それで、えっと、その、」と接続詞を連発する姿からして、極度に緊張しているのだろう。用件など、両手で抱えた包みで全て見透かされているというのに。
やがて肩を震わせながら深呼吸し、幸村のクラスメイトは切り出した。



「…すまないが、君の望む答えは出せない」
そう言って、俺は差し出されたピンクの箱を左手で押し戻した。貰ってしまうのは、なんだか気が引けた。
だが彼女は落胆から一転し、それでも受け取ってくれないかと言った。余ってしまっては困るからという尤もらしい理由と笑顔が付いてきた。
「しかし…本当に…良いのか?」
尋ねると大きく頷かれ、俺は逡巡の後、礼を述べて手を伸ばした。

「こっちこそ、ありがとう」
喜びを表す表情なのに何故か胸に突き刺さる笑顔で、同級生は言った。そして、背を向けて足早に去っていってしまった。
その背中が角を曲がって見えなくなると、今度は背後の視線の主へ声をかける。
「赤也、出てきたらどうだ」

「や、柳さん…」
部室の裏から顔を出した後輩は、一部始終を盗み見ていたのだろう。俺の手にある包みへ、不満げな視線を送っている。
「そんな目をしないでくれ…。断らない訳がないだろう」
「…でもそれ」
「余ってしまうからと、貰っただけだ」
「……」
「赤也…」
どうやら、まだ許す気にはなれないらしい。が、眉間に皺を寄せる恋人に、俺はどうすることも出来ない。宥めるように、名前を呼んだ。
すると赤也は複雑な面持ちながらも頷き、言った。
「柳さん」
「何だ?」
「…今日、暇っスか?」
「ああ、特に用事はない」
「じゃあ、…家、来て下さい」
「……分かった」
少しの沈黙の後、今度は俺が頷く番だった。



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