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アラルガンド(57000hit御礼幸柳)




「っ、ふう……」
遠慮の固まりをどうにか風呂場へ押し込み、俺はどかっとソファーに腰を下ろした。
火照った身体を鎮めようとペットボトルの水を口に含んで、まだ風呂上がりの濡れている髪をタオルで拭う。
部屋の明かりの眩しさにそのスイッチを切ると、月の存在が一気に派手になった。
半月だった。
上弦やら下弦やら習ったけれど、もう記憶の底へと沈殿してしまっている。
天気予報では、確か上弦の月だと言っていたと思うけれど。

開け放したカーテンはそのままに、月光が照らす薄暗い室内で耳を澄ます。
シャワーを流し、洗面器を動かす音。
そういえば、蓮二と二人で風呂に入ったことがない。近日中に実行してやろうか。
そんなことを考えるうちに音は止み、代わりに浴室のドアを閉める音がした。
やがてゆっくり歩いてくる足音が聞こえ、俺はその方向へ顔を向ける。
「蓮二、上がった?」
暗闇へ呼びかけると、間もなく蓮二が姿を現した。
「済まないな、精市…何から何まで…」
これでもかと日本人の美徳を発揮してくる蓮二は、俺の一存で決定した服を身に着けている。
とは言え、公表不可能なほど難儀な性癖はお互い持ち合わせていない。普通のTシャツとズボンである。
「いいんだよ、そんなこと。…ほら、こっち」
自分の隣を示すと、一つの首肯を経て、蓮二はそこに座った。
一気に距離が近くなる。
まだ熱を残している白皙に目を惹かれながら、その肩に掛かっているタオルを手に取る。
「精市?」
「ん?ああ、拭いてあげようと思って」
そう言ってタオルを頭に被せると、蓮二は控えめに笑んだ。
しっとりと濡れた髪には、シャンプーの残り香が漂っている。
本来なら清潔なその匂いは、対象が蓮二になると何故かいかがわしさを醸し出す気がしてならない。
でもそれは嗅覚ではなく、彼の首筋を伝う一筋の水滴によるものかもしれない。
そんな滅茶苦茶な言い訳で己を説き伏せ、蓮二の髪を拭く手を止めた。
「精市…?」
タオルを意図的に落下させると、懐疑的な視線が俺を捉える。
「蓮二……」
答える気など毛頭ない。
どうせ自分の髪も濡れているのだからと、蓮二の首元へ頬を擦り付けた。
「冷たいだろう…精市、っ…」
「……いい匂い」
「……変態臭いぞ…」
「うん。思った」
それでも構わずに行為を続行すれば、蓮二は観念したのか、腰へ回る俺の手を拒むことはなかった。そしてそれ以上、何も言わなかった。
その無言を肯定と見なし、ソファーに仰向けに倒す。

「精市っ……」
首筋に蓮二の腕の体温を感じて顔を上げた。
視線が重なり、なんとなく彼の言わんとすることを推測する。
多分間違ってはいないだろう。
「いいよ…」
白い頤を上向きにさせ、ゆっくりと顔を近付けた。
震える瞼を、撫でるように塞ぐ。
「蓮二……」
耳元で囁くと、ぴくりと肩が揺れた。
俺は一人、小さく笑う。
そして自分の視界もフェードアウトさせながら、眼下の唇へ口付けた。


end


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