main | ナノ
12 どこかの境




六時間目に返ってきた英語の小テストは、十点満点中三点だった。
三点と言うと相当低い点数に思えるけど、百点満点に換算したらなんと三十点も取れていることになる。
俺にしては上々だ。
そう悦に入ってから鞄にテストをしまい込み、ホームルームが終わるとすぐに部活へ向かった。


部室には、丸井先輩と仁王先輩しかいなかった。他の先輩は皆、委員会とか生徒会で遅くなるらしい。
鬼の居ぬ間になんとやらとは、よく言ったものだ。これ以上の機会なんてそうそう無いから、俺はずっと気掛かりだったことを消化すべく口を開いた。
「…丸井先輩」
「んー?」
「一つ、相談なんすけど」
「え?」
「どうしたんじゃ急に」
口を挟む形で仁王先輩が会話に加わり、座っていたパイプ椅子を俺の方へ向けた。
「珍しいな。お前が悩み事かよぃ」
茶化すように笑いながらも、丸井先輩は「話聞いてやるよ」と椅子に座り直した。
「…昨日、柳さんから電話きて…」
そこから始まって、とりあえず思いつくままに喋った。支離滅裂すぎて、後から思い出してもなんて話したのかよく覚えていない。


喋るだけ喋って一息吐いた俺に、丸井先輩は何故か呆れ顔だった。
「…あのさ、幸村くんがそれ言ったのっていつよ」
「どうせ何ヶ月も前の話じゃろ」
かなり前ではあるけど今年だと答えると、仁王先輩は丸井先輩と同じような視線を送ってきた。
「多分、その時は幸村くんが合ってたんじゃねえの」
「はい?」
「ほら、あの憧れがどうのこうのって話じゃ」
「あー…」
いまいちピンと来ない言葉に首を傾げると、丸井先輩が溜息をつく。
そんなことされても、理解できないものはできない。
「それって、どういう…?」
「だから、……お前は柳に憧れてる訳じゃないってこと」
「え?でも幸村部長」
「そん時はそん時じゃろ、今と全部同じなわけなか」
「……じゃあ、憧れてるとかっていうんじゃないってことっすか?」
「てか、寧ろ憧れで言うなら幸村くんと真田と柳まとめてじゃねえの?」
確かに、それは否定できない。
部長や副部長個人ではなく、目標はあの三人なのだ。なんか、考えてみればすごく単純な話の気がする。
でも何故か頭の中が上手くまとまらない。
「…じゃあ、柳さん、は?」
憧れているのだという固定観念に縛られていたせいか、他の可能性が何も思いつかなかった。
「だから、お前、それは…」
尋ねると口ごもってしまった丸井先輩は接続詞を連発するだけで、話は全く進む気配を見せない。
それが続き、見かねた仁王先輩が口を開いた。
「じゃから、お前さんが柳のこと好きなんじゃないかって話」
丸井先輩が躊躇った一言を、仁王先輩はいとも簡単に言ってのける。
その「好き」が一体どういう意味を指すのか、確かめる必要はなかった。
英単語にしたときの綴りも書けるし、問題はないはずだ。多分。


end



Novel
Site top


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -