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11 難題ラッシュ




「珍しいな、赤也が俺より早いなんて」
そう幸村が目を丸くした通り、俺が幸村と登校したとき、赤也は既に部室にいた。
昨日の電話が効いたわけではないだろうが、彼なりに何か思うことがあったのかもしれない。
「あ」
少し間の抜けた声を上げる赤也と目があった。
「おはよう。寝坊はしなかったみたいだな」
「…当然っすよ。…もう大丈夫なんすか?」
「ああ、勿論。ところで赤也」
「はい?」
赤也の顔を見て、あの電話の後で受けとったメールを思い出した。
その差出人はすっかりそれを忘れているのか、鮮やかな髪を揺らしながら風船ガムを大きく膨らませることに勤しんでいる。
「昨日、英語の小テストがあったそうじゃないか」
「ああ、そういえばブン太が言ってたね」
俺の一言で何故知っているのかと言わんばかりに目を丸くした赤也は、精市の一言ですぐ丸井を振り返った。
「ま、丸井先輩…!」
「…いや、別に真田に言った訳じゃ、」
「そうじゃなくて、そもそも何で言ったんすか…!?」
「出来心でつい」
「で、出来心っすか…」
しれっと言ってのける丸井に肩を落とす赤也ね後ろで、精市が声を立てずに笑って着替え始める。
何も言わない精市の様子を伺うように、赤也は首を背後に向けて胡乱な視線を送っている。
そんなに心配せずとも、彼はこの件に関して深く突っ込むつもりはないのだろう。
「赤也」
声を掛けると、彼はゆっくりと俺の方へ体を向けた。
「…まだ返ってきてないっすよ」
語気を強めて口にしたその一言は、叱責を回避するための彼なりの策らしい。
つまり今回も、点数は芳しくないようだ。
けれど、説教は弦一郎に託すことにする。
「赤也」
「…はい」
「返ってきたら見せてくれとは言わない」
「……」
「でも、復習くらいはすると約束してくれ」
すると、一瞬の逡巡の後、赤也は頷いた。
「…約束、します」
「そうか。ありがとう」
「え、あ、…」
ありがとうと言った直後、彼の態度が一変した。
焦ったように落ち着き無く手を握り締め、酸欠の金魚のように口を開閉させている。
そういえば、とその時脳裏を掠めたのは、言うまでもなくあの電話だった。
共通するのは、妙に取り繕ったような態度だ。
その理由を問いただしてやりたい気持ちを抑えながら、何も気づいていない振りをして着替え始める。
すると背後で、赤也が小さく嘆息するのが聞こえた。
否、もしかしたら安堵の溜息だったかもしれない。




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