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御礼文は幸柳と乾柳です。


面会時間の規制ほど、嫌いなものはなかった。
柳が帰ってしまうから。


「…じゃあ、俺はそろそろ帰る」
今日も時計の針は、7時57分を指した。
柳はいつも、この時間に帰り支度を始める。
「…柳」
「幸村?」
「…もう少しだけ、いなよ」
「しかし、時間が」
「少しだから」
柳は優しい。
こうして押せば、きっと断れない。
それに付け込む俺はなんと意地が悪いのだろう。
黙って頷き、柳は椅子に掛けなおした。


「柳は上手だね」
「そうか…?」
柳の手によって、りんごの皮が剥かれていく。
無論、皮はちゃんと、切れずに繋がっていた。
以前真田が切った時は、皮が実を巻き添えにした塊がぼとぼとと落下していたのが思い出される。
実を削いでどうするんだ、芯しか残らないだろ。そう言いたくなった。
「真田が切ったのは生ぬるくて不味かった」
「ああ、手の温度でか」
弦一郎らしいと小さく笑い、柳は作業を続けた。
時刻は午後8時20分を回った。
しきりに時計を気にする俺に、柳は気付かない。
等分されたりんごは、綺麗な白い皿に並べられた。



「蓮二…」
「嫌だっ…幸村、そんな…っ…」
りんごには手をつけていない。
思いつく限りの否定と抵抗を並べる蓮二の脚は震えている。
きっと、竦んで立ち上がれないんだろう。
「好きだよ、蓮二…」
顎に手をやって固定し、唇を近付けてゆく。
「幸村っ…俺は、っ…」
その続きを聞きたくなくて、蓮二の唇に自分の唇を押し当てた。
震える唇の合間から舌をさし込み、歯並みをなぞって絡ませる。
生温かい咥内で、二人分の唾液が混じった。


「んんっ、ふ…ぅう…」
「…れんじ…っ」
暫くしてようやく唇を離すと、蓮二は口の端から流れて下顎を伝う唾液を拭った。
そしてその手が目を擦った時、俺は現実を知らされた。
「ごめん…でも、好きなんだ…」
「…ゆ、幸村っ」
謝りながら抱きしめた体は暖かかったけれど、指先は冷たい。
視界の端に映るりんごは時間を経て、茶色を帯び始めている。




翌日、蓮二はまた来た。
「…せ、精市…?」
「入りなよ蓮二」
昨日は驚いたと俺を見る蓮二は、赤いりんごが入ったスーパーの袋を持っていた。



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