02 2/3 「…柚麻?出掛けたのか?」 どれほど時間がたっただろうか。リビングから聞こえた声に顔を上げた。 まだ少しボーッとしている。長いことここにいたきがする。でも記憶がない。かといって寝ていたというかんじもしない。 俺は立ち上がって、涙を拭いて居間に戻った。 「竜也…」 「ああいた、柚麻、ビックリした」 どっかいったのかと思った、と言って抱きしめてくれた。とたんウズウズするような感覚が湧き上がる。 ああ、抱きしめてくれている、きっと竜也は俺に飽きてなんかいないはず。 ただ抱きしめられただけなのに、どうしようもない俺の心はトロトロと溶けてしまう。 「ずっといたよ」 「うん。そうだったんだな」 「ずっといた」 竜也と違ってね。 ドクン。心臓が悪く脈打った。 「そうだ柚麻、おやつ食おう」 「おやつ?」 「友達がさ、旅行行ってきたんだって。そのお土産。食う?」 「うん。」 それ、本当に友達? 俺はそれを食べたくない気がしてきた。 「…どうした柚麻、なんかちょっと、変だけど」 「ううん。大丈夫」 「そうか?」 変なのも当たり前だ。逆に聞きたいよ、どうしてそんなに普通なの? 用意してくるから、待ってて、と竜也は台所へ向かって行った。 残された俺は相変わらず立ち尽くし、ひとつ溜め息をつく。 信じられない、信じたくない。ポリポリと左手を掲げ頭をかいた。 そこで自分の左手首が目に留まって、それからゾッとした。 「……え」 なんだ、これ…。 手首にあるのは真っ赤で少し血の滲んだ横に一直線の傷痕。爪が深く食い込んだような痕だ。 「………っ!」 いつのまに、どうして?なにをいつどうしたらこんな傷がつくんだ? 反射的に顔を上げて台所の方を見やる。姿こそ見えないけれど、カチャカチャという食器の音が聞こえている。 竜也にはまだ見られていないはずだ…こんな変なの、早く隠さないと。グイと袖を引っ張って引き伸ばした。 ふと、傷に思い当たる節が浮かんだ。あれしかない…でもそれを思うと、更にゾッとする。自分が怖くなる。 さっき、玄関にうずくまっていた時だ。あまり記憶がないけれど、でも確かに、あの時に手首を傷つけた一瞬の光景が頭の片隅に残っていた。 なんで俺はそんなことをしたんだろう。 わからない、 どうして? 俺は自分のこともわからなくなってしまった。 *前 次# ← |