いつもはアラームで目がさめる宗介だが、今日は自然と目が覚めた。
外が明るい。
そばにあったスマホを見るといつもアラームが鳴る時間より30分ほど早い時間だった。そういえば腹に巻き付いていた真人の腕が見当たらない。

体を起こしあたりを見回すと、隣で寝ていたはずの真人がいない。
かわりに部屋の扉の向こう、キッチンの方からカチャカチャと音がする。
しばらくぼんやり眺めていると、扉が開いてお茶碗を二つ持った真人が部屋に入ってきた。

「あ…宗介おはよう」

真人はニッコリ笑って慣れた手つきでローテーブルに食器を並べ始めた。

「お…おはよ。なにしてんの?」
「泊めてくれたお礼したくて…キッチン勝手に借りちゃった、ごめん」

開いた扉からふわっと味噌汁の香りがして、グウとお腹がなった。
宗介は立ち上がってキッチンの方に歩いて行くと、小鍋に味噌汁と、フライパンには目玉焼きが二つ乗っかっている。

「わ…うまそう」
「簡単なものだけど…」
「いや、全然。俺最近朝飯はパンばっかだったから嬉しいよ」

そう言うと真人は照れたように笑った。
それがなんだか可愛く思えたことに宗介は気まずくなって、目をそらしさっさと着替えることにした。

真人を泊めて、一緒にベッドで寝たり朝ごはんを作ってもらうこの状況に宗介はなんとも言えない気持ちになっていた。
それは真人と宗介が特に親しくなかったからという事の他に、これまで男友達からは感じた事がない色気を真人から感じていたからだった。
腹に腕を回されていた時だってそうだ。
もし他の友達だったら余計な事考えず、気持ち悪いなと腕を振り払っていたに違いないのに、宗介は真人にソッチの気があるんじゃないかなどと疑ってしまった。
宗介は真人に対して少し申し訳ない気持ちになった。

「今日は朝から講義だよね?確か俺と一緒だったはず」
「ああうん、そうだね」

確かに真人と一緒だった気がする。
服を着替えた宗介は真人とテーブルを囲んで、久しぶりのまともな朝食を摂った。
食事中に聞いた話によると、大学での共通の知人に宗介と高校の時からの友達がいて、そいつから宗介がこのアパートに住んでいる事を聞いたらしい。

真人はいいやつだったから今回は良かったものの、もう勝手に人に家を教えるなって口止めしておこう。


その日は一緒に大学まで行って、そこからは普段通り別々に行動した。
宗介は友達が多いタイプではないし、積極的に増やしに行こうとするタイプでもないが大学内でまた一人気軽に話せる人ができた事は悪い気はしなかった。




真人が泊まりに来た日から、大学でよく真人を見かけるようになった。

いや、多分今までも見かけていたはずなのだが、ほとんど他人の真人を気にかけていなかったのだ。
特に真人に用事があるわけでもないので、声をかけるでもなく、ああいるなと思うだけだったが。

真人が泊まりに来た日から3日目の昼前、宗介はトイレに入ったところで真人を見かけた。
真人はというと洗面台の端で隅の壁に体を向ける形で斜めに立ち、体と壁でガードするようにしてスマホをいじっていた。
フラーッと音もなく現れた宗介には気がついていない。

一応声をかけよう。

そっと近づいて軽く覗き込むように真人の顔を見ようかと思ったが、これがまずかった。
宗介としては驚かせないように静かに近づいたつもりだったが、音もなく近付く気配に気がついた真人は振り返ってビクリと体をはねさせた。

「うわあっ!?」
「わっ」

予想異常の大声に宗介も肩が跳ねる。
真人は驚いた拍子にスマホをするりと手から離してしまい、慌てて動いた真人の足にコツンと当たってトイレの入り口の方までズザザー!っとすっ飛んで行った。

「!」
「あ、待って!」

宗介は血の気が引くような想いで真人のスマホに駆け寄って慌ててスマホを拾い上げた。
画面にヒビがないか、電源がつくかを確認したかった…が、そこに映し出された画面に宗介は一瞬で凍りついた。

真人が開いていたのはツイッターで、ツイートするところだったらしい。
まず目を奪われたのは写真だ。
真人と思わしき人物が全裸で四つん這いになり、お尻をカメラの方に突き出しながら振り返っている。
上にはツイートも打ってある。

今夜新宿行くから誰か…

最後まで読み終わらないうちに、ガッ!とものすごい勢いで真人のスマホを持った手を捕まれ、背後から飛び出してきた真人が力強く宗介からスマホを奪い返した。

「あはは…宗介く〜ん…………何か見た?」

目が笑っていない。
宗介は犯行現場を目撃した気持ちになった。
ブンブンと勢いよく首を振る。

「あ、そう……ちょっと話あるからトイレ済ませたら顔貸してくれる?」
「………」

もうトイレをしたい気分ではなかった。
でも真人の鬼の形相を前に何も言えなくなり、おとなしく従う事にした。
その間、真人はトイレから出て、入り口付近で待っているらしかった。

俺は人の大事な秘密を握ってしまった…。

宗介はため息をついた。
真人を見つけた時にすぐ声をかければよかったんだ。
そしたら真人はあそこまで驚く事はなかっただろうし、あんな…ああいう画面を見られることもなかった。
…とにかく今一番困惑しているのは真人のはずだ。






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