12

友人が真人に睨まれるという事はこの際問題ではない。
宗介の方を気にしているのは確かだ。

宗介は、もしかして距離を置いたらあっという間に真人は自分への興味を無くすのではないかと思っていたため、真人が宗介の様子を気にかけているという事は宗介を少しだけ安心させた。

「……ほら!見てる見てる!」

教室に入った所で友人はコソコソ話のような感じでそう言った。
ちらりと友人が顎でさす方向を見る。

教室の真ん中の方に真人は座っていて、確かにこっちを見ている。
一瞬険しい表情をしているように見えたものの、宗介が見ている事に気がつくとすぐに表情を和らげ、眉を垂らした。
悲しそうな表情になぜかこっちが苦しくなって、宗介は目を逸らした。


真人はわざと宗介の視界に入ろうとしているようだった。
帰り際や食堂、講義中。
ジッと見てくるだけでなくわざわざ宗介の前を横切って歩いていくようだ。
気を引こうとしているらしい。
宗介はせっかく冷却期間を設けて頭を冷やしたかったのに、結局真人の事が頭から離れない。



「宗介、今日はもうあがっていいよ」
「はい。お疲れ様でした」

その日は22時までバイトが入っている予定だったが、客が少なかったので1時間早く上がる事になった。

着替えて店に出ると、店の裏の方から人の声がした。
二人いる。もめているらしい。

「だったらライン教えろよ!それで連絡とればいいじゃん」
「だから…そういうのもうやめるんだって!」
「なんでだよ!」

「……

声の主は二人とも男、しかも聞き間違いでなければ片方は真人の声だ。
相手の男はだんだん感情的になっていくのが声で伝わった。
なんで真人がここに?
真人は宗介のバイト先を知っている。待ち伏せだろうか。

二人は店の横側、駐車場の所で言い合いしているらしい。

「お、俺恋人ができたから…もう他の人とはしないし会わないって決めた…」
「恋人ができたからって…本気かよ?頭固すぎるだろ!」

いや、お前は柔らかすぎるだろと宗介は脳内で知らない男にツッコミを入れた。
察するに真人が以前相手していたツイッターで出会ったとかいう男だろう。

「お前には無理だろ…いいから一旦ライン教えろよ、ツイッター消えたんだからさ」
「や、やだ!」

真人の声にどんどん焦りが混じって、宗介は堪らず動いて二人の前に姿を現した。
真人は男に手首を掴まれている。

「真人」
「!宗介…」

真人は宗介を見ると泣きそうな顔をした。
男はキョトンとしている。

「真人の恋人です。うちは絶対浮気認めない事にしてるので…勘弁してください」
「ああいや…別に…」
「真人に何か用があるなら俺が間に入ります」
「や、大丈夫だから…!」

男は修羅場に立ち会ったみたいな、とてつもなく面倒くさそうな顔をした。
真人の手首を離し、宗介がまた何か言う前に逃げるように去っていった。

「宗介ー!」
「うわっ」

真人は大声で名前を読んで宗介に勢いよく抱きついた。
宗介はさっき真人が男に掴まれていた手首をそっと撫でた。

「怪我ない?」
「ないよ、ありがとう。あいつ前言ったこの近くに住んでるやつ。偶然…本当に偶然さっきここで会って声かけられたの!連絡とったとかじゃないから…!」
「うん、それはわかったよ」

真人は涙声になっている。
頭を撫でてやると、真人の腕に苦しいほどギュウと力がこもった。

「…帰ろう」
「ど、どこに?」
「俺の家…泊まっていいから」

真人の顔が少し明るくなった。


手を繋いで夜道を歩く。
真人は何も言わないので、宗介から話しかける事にした。

「で…なんであそこにいたの?」
「…………」
「もしかしてストーカー?」
「ち、ちが……話しかけたくて…でも話しかけちゃだめだからどうしようって迷ってるうちに宗介バイト行っちゃったから終わるまで待とうと思って…」

それはストーカーだ。

真人は俯いて、握った手にほんの少し力がこもった。


アパートに着き、シャワーを浴びればと勧めたものの真人は宗介にべったりくっついて離れない。
まあいいか。ベットの脇に座ると真人は勝手に宗介の膝に向かい合わせに乗って首に巻き付いた。

「俺…ツイッター消したんだよ。見た?」
「うん」
「今まで会った人とは皆ツイッターだけでやりとりしてたから…皆切ったの」
「そっか」

宗介のそっけない相槌が気に入らなかったのか、真人はポンと宗介の背中を軽く叩いた。

「……俺の事、もう嫌いになった?」

嫌いになっただなんて、考えもしなかった言葉に宗介はハッとした。

「なってないよ、真人が俺の言った事わかってくれて安心した」

すると、ようやく真人の体が少し離れたと思ったらカプリと宗介の耳を甘噛みした。
宗介は驚いて少しの間固まってしまった。

「俺宗介だけのものになるよ。そうなりたいって思った」

いつもより少しだけ低い真人の声が宗介の耳をくすぐった。



その日は今まで通り二人でベッドに入った。
向き合って、手を繋いだまま話をした。

「真人の事だからてっきり今日は誘ってくるかと思った」
「だ、だってそんなテンションじゃ……あ、でも俺は全然してもいいよ!」
「………」
「その顔やめて…」
「ふふ…。でも俺今日は…眠くなってきた…から」
「う、うん。今度しよう」
「ん…」

宗介は突然眠気に襲われて目を閉じた。
しばらくすると、真人がすり寄って首元にキスしてくるのがわかった。
さんざん疑ったけど、すっぽり自分の手元に収まってくれたようで宗介は嬉しかった。




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