11

「待って!あ、あの、一回話しよう?」
「…わかった。でも少し時間ちょうだい」

今は話なんかしたい気分じゃない。
食堂にいるのに食べる事もしんどいと思っていた。

宗介は真人から逃げるように足早に真人の横を通りすぎた。
真人は何か言いたそうに宗介の袖を掴んだものの、宗介がスピードを落とさないのでやがて諦めて手を離した。

宗介は食堂の隅で一応食事をしつつ、これからの事を考えた。
あの尻軽な真人をさっさと諦めて別れる事と、昨日の事は一旦許してしまう事、二つのパターンを想像した。

…どっちも嫌だ。

真人の事が好きだ。
でもだからこそ他の男とどうにかなるなんて絶対に許せないし、やっぱり真人の事はあまり信用できない。
でも笑ったり甘えたり照れたりする、真人の色々な表情を思い出すと別れるなんてもっと苦しい。

告白しなければよかった。
というか、出会わなければよかったのに。


今日は外が明るいうちに講義が終わった。
さっさと帰って寝てしまおうと思い早足で家まで歩いていると、後ろから声がした。

「宗介!待って!」

真人だ。
腕を掴まれる。
走ってきたらしい真人が荒れた呼吸を整えているのをぼんやりと見ていた。

「何?」
「は、話したくて…」
「……それで?」

真人はどう言おうかしばらく考えているみたいだった。
またとんちんかんな言い訳をするか、もしくは浮気されたという宗介の思い込みを覆す衝撃の真実でも話して欲しい気分だった。
が、真人はスッと頭を下げた。

「昨日は…ごめんなさい」
「…………」

最悪だ。

「宗介が思ってる通り…お父さんじゃない。1年くらい前にツイッターで知り合った人で…昨日は本当に久しぶりにあったの。ごめん、もうしない」
「もうしないって…何を?なんの事言ってる?」
「ほ、ほかの人と会わない」
「浮気しないって事?」
「しない!」

宗介はあたりを見渡して、周りに人が歩いていない事を確認した。
人通りは少ない路地だ。
家に連れて帰ってそこで話を聞いてもよかったが、なんとなくそうしたくなかった。
長い時間をかけて話し合いたいとも思っていなかった。

「…昨日は、ヤらなかったって書いてあったけど…どうして?」
「お腹痛くなって…それに、久しぶりにあったらなんか違うっていうか…宗介の事思い出した」

そんな所で俺の事思い出すな。
宗介はついイラついてしまった。

「服脱いじゃったし、でもやっぱり辞めようと思って断ったの…そしたらじゃあ一緒に昼寝するだけでいいよって言われて……」
「優しい人だね。付き合えば?」

そう言うと真人は少し潤んだ目で宗介を睨んで唇を噛んだ。

「してなくたってするつもりで会ったなら、したと一緒だよ」
「……ごめん。でも本当に、浮気しようとかそんなつもりじゃなくて…」
「まあ、真人と俺とでは浮気のボーダーラインが違うんだろうね」

なんせ真人はしょっちゅういろんな男の元を飛び回って関係を持っていたような男だし、倫理観はやっぱりおかしいんだろうと宗介は今回の件で確信していた。
真人はついにポタポタと涙をこぼし始めた。
宗介はなんで自分ではなく真人が泣いているのか理解できないままぼんやりと地面が濡れていくのを見ていた。

「…今日はもう帰るよ。頭冷やしたいし…一人にさせて」

踵を返して、真人を残して歩き始めた。
真人と話していると、なんだか自分の気持ちがわからなくなる。

するとすぐに真人は俺の腕にしがみついた。

「俺宗介と別れたくない!おねがい…!」
「…しばらく距離おこう。また連絡する」






真人のツイッターのアカウントはその日の夜には消されていた。

宗介がアカウントを見ていると知って避難したんだろうか。それとも本当に反省してああいう事を一切やめてくれるという事なんだろうか。

結局あれから真人とは言葉を交わさないまま土曜日を迎えた。
本当だったら例の本屋に昨日から泊まって、今頃はきっと一緒に過ごしていた所だ。

宗介は一人で部屋に閉じこもって色々と調べていく中で、そもそもゲイカップルには浮気をお互い公認しているカップルも多いという事を知った。
心の繋がりと、一時的な体だけの繋がりは全く別という事だ。

真人もそういう気持ちだったんだろうか。
それに真人が体の関係を持つのに恋愛感情は一切必要ない事はもうわかりきっている。
考え方はわかるけど、やっぱり理解したくない。
この理解したくないんだという事を、やはりわかってもらわなくては。



月曜日も火曜日も、バイトや課題でなんだかんだ忙しく過ごしていた。
これまでは無理にでも真人との時間を作っていたけれど、その時間がなければないでやろうと思えば色々やる事はあった。

「なあ、俺最近さ…あの真人ってやつによく睨まれるんだよな」

廊下を歩いている時、大学内でよく一緒にいる友人が声を潜めてそう言ってきた。

「睨まれる?」
「あんまり喋った事ないのに…。てか、お前といる時に睨まれる気がする」
「…俺のせいにするなよ」

真人は話しかけて来ないものの、宗介も視線は感じていた。
たまたま近くをすれ違った時や食堂で見かけた時。
ジーッと宗介を見つめている。
目を合わせないようにしていたが…睨まれていたのだろうか?





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