今年の春から大学1年になった宗介は深夜の1時を回ってようやく格闘していたレポートを済ませたところだった。
課題を溜めるほうではないが、今回は運悪くバイトが重なってしまい思うように課題を片付けられなかったのだ。
バイト減らそうかな…。
そんな事を考えていると、大学進学と同時に始めた一人暮らしの部屋にピンポーン!とインターホンが鳴り響き宗介は思わず目を見開き肩をすくめた。
郵便?宗教の勧誘?
どれもありえない事だった。
なぜなら今は深夜1時、たいていの人間は仕事を終えた時間だから。

おそるおそるドアに近づきドアスコープを覗く。

「…!」

そこに立っていたのは大学で同じ学科の真人という男だった。
なぜ真人がここに?
いくらおなじ学科とはいえそれ以外に特に共通点はなく、ほとんど話した事もなかった。もちろん家を教えた覚えもない。
考えてもわからない事なので、とにかく知り合いならばと宗介は慌てて鍵を開けて扉を開いた。

「真人…?」
「こ…こんばんは」
「…こんばんは」

真人は気まずそうに宗介をチラチラと見上げた。
宗介は半歩下がって「家にあがって」のジェスチャーをすると、真人も玄関に入ったので再び扉の鍵をかけた。

「どうした?」

何から聞いたらいいかわからず、とりあえずそういった。よく知らない奴が真夜中に訪ねてきて、ろくに喋らないので宗介は内心ドキドキしていた。

「ごめん、泊めて欲しくて…終電がもうないから。友達に宗介の家聞いた事あったんだ」
「ああ…そうか…うんいいよ」

シンプルな要求に安堵しつつも少し困惑した。
宗介の住んでいるこの部屋は1Kで、もちろんベッドは一つだけ。友達を家に呼ぶ事が苦手な宗介はまだ客人用の布団も用意していなかった。
でもこんな夜中に追い返すわけにもいかず、部屋に案内してやると真人はあちこち見渡しながら綺麗だな〜とか片付いてるな〜だとか呟いた。

「あ、もしかしてレポートやってたの?」

真人が俺のパソコンを覗き込んで言った。
あまりに部屋中じろじろ見るので宗介は真人を中に入れた事を早速後悔しはじめていた。

「うん、でももう終わって寝るところ。真人はシャワー使う?」
「ううん、入ってきたから大丈夫。俺も寝るだけ」
「じゃあそこ使って」

真人が言われた通りベッドに乗っかるのを見ながら宗介はふうと息を吐いた。
しょうがない、床で寝るか。
枕にするためのクッションを引き寄せると、ベッドの上から真人が声をかけた。

「え?そこで寝るの?」
「布団ないんだ。気にしないで」
「体痛くなるからダメだよ。俺がそっちで寝る」

真人はベッドから降りて来て俺とクッションを引き離そうとした。

「いいって」
「俺が突然押しかけたんだから」
「でも…」

宗介はこういう時の正解が分からず困惑した。
確かに押しかけてきたのは真人だが、一応客人なので床で寝かせるのは抵抗があった。
真人は宗介の思考を読み取ったかのようにクッションを取り上げようとするのを諦め、今度は宗介の腕をそっと掴んで控えめに顔を覗き込んだ。

「じゃあ一緒に寝よう?」

それは宗介にとってまさかの回答だった。

「入らない気がする」
「入るよ、詰めれば」
「狭いし…」
「でもどっちかが床に寝るよりいいでしょ?」

真人のパッチリとした目に見つめられると同時にフワッとかすかにシャンプーの香りが漂ってきて、なんだかマズいのではという気持ちになりながらも他に案がない宗介はしぶしぶ承諾した。

二人並んでベッドに入ると多少狭さは感じたものの、二人とも大柄な方ではないし、特に真人は寝てみると思ったよりも小さかったのでなんとかなった。
しかし特別仲良くない男と二人きりでベッドで寝ているという状況が少しむず痒い。
今日はどうして遅くなったのかとか家はどこなのかとか、誰にこのアパートを聞いたのかとかを聞こうと思ったがそれよりもさっさと寝る方がいいと思い、やめた。

電気を消し、寝ようかと思ったが一つ問題があった。

真人が横向きで、しかも宗介の方を向いて寝ているのだ。
こういう状況なら普通、正面を向くかお互いに背を向けるものなのでは。
宗介は横向きで寝るのが得意ではなかったのでできれば正面を向いて寝たかったが、どうにも見られているような気がしておちつかない。
おそるおそる真人の方を見ると、暗闇の中で真人と目があったのがわかった。

「!」
「…どうしたの?」
「いや…」

真人は眠たそうな声で言った。
どうしたのはこっちのセリフだ。
宗介はおやすみと言って、真人には背を向けて寝る事にした。
真人はこっち向きじゃないと寝られないタイプなのかもしれない。
遅い時間だったこともあり、宗介はすぐに眠りに落ちた。



「ん…ぅ」

お腹のあたりが少し窮屈な感じがして目をさます。
まだ周りは真っ暗で本来起きるには早すぎる時間だとわかった。
見ると、窮屈な感じのする原因は真人が後ろから宗介のお腹に腕を回しているからだった。
嘘だろ?と思った。
まさか真人ってソッチの人?
そっと顔だけ振り返り真人を見ると、ぐっすりと心地好さそうに眠っていた。すーすーと微かに寝息も聞こえる。
他にとくに異常があるわけでもないので、疑うのはやめて元の体勢に向き直り目を閉じることにした。

真人は多分、寝ぼけて俺と誰かを勘違いしているんだ。彼女的な人と…
もしくは、抱き枕がないとダメなタイプなのかもしれない。

宗介は自分の中で納得すると、再び目を閉じた。



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