部屋に連れ込まれた真人はローテーブルの前でちょこんと正座していた。

「大丈夫?何かあった?」
「なんで?」
「機嫌悪いみたい」

真人の気まずそうな声に宗介は首を振る。
落ち着かなくては。脅しても意味がない。

「ああごめん…ちょっと眠くて」
「眠いなら寝たら?」
「歩いてるうちに目が冴えた」
「へえー」

一応納得したらしい。

真人はテーブルに置いてあったナッツの袋をジロジロ見ていたので、ティッシュを一枚敷いてザラザラといくつか出してやった。
真人はアーモンドばかり食べ始めた。

「昨日何してた?」
「……なんで?」
「別に…世間話だけど」

宗介は真人の向かいに座ってナッツをつまむ。
なるべくなんでもない風を装ったが、真人は逆に気まずそうだった。

「暇してたかな」

嘘つかれた。
なんでだ。
真人も何か罪悪感を感じている?

「そっか。今日はまた誰かひっかけるつもりだったんでしょ?」
「えへ」

あっさり頷く真人。
だめだ基準がわからない。

「あーっ!宗介なんであれ使わないの?」

急に真人が声を張った。
テレビ台に置いておいた、デートの時にお揃いでと買った定期入れを指差している。

「大学は徒歩圏内だしあんまり使わない」
「でもsuica持ってるでしょ?電車乗る事あるでしょ?」
「あるけど…てか昨日持って帰ってきたばっかりだし。今度電車乗る時入れるよ」
「俺はもう使ってるよ!」

真人はニコッと笑ってカバンについた黄色の定期入れをぶんぶん縦に振った。
早くつけないと。
なんならおそろいですと周りに言って聞かせながら歩かないといけない気がした。

「わかったよ……せっかくお揃いだしね」

真人は満足げに笑った。

しばらく他愛もない話をして、日が暮れてきた頃に真人は立ち上がって自分のカバンを手に取った。

「じゃあそろそろ帰ろうかな」
「え……なんで?」
「あんまり邪魔しても悪いし」
「そんな事ないよ。俺から誘ったし」
「でも…」

邪魔しちゃ悪いとか言って他の男のところ行くつもりだな。
真人はどう切り抜けようか迷っているみたいだった。
構わず出て行こうとするので、宗介も立ち上がって後を追ったが見送りしてくれるものと思ったらしく真人はヘラッと笑った。

「へへ…じゃあね!またあそぼ!」

くそ 逃がすか。

真人が部屋とキッチンを仕切る扉を引こうとしたその前に右手で扉を押さえつけ、扉と宗介の体とで真人を閉じ込める。
さすがに様子がおかしいと思ったのか真人は怯えたような顔をした。

「ど…どうしたの…俺の事殺すの…?」
「昼ドラか?」

真人は視線をキョロキョロさせている。
かわいそうになってきた。

「やっぱり本当は誰かと約束してるんだろ」
「してないって……してなくても行けばすぐ相手見つかるの。世の中にはそういう場所もあるの!知ってる?」
「……知らない」

知りたくもない。
こいつ、ヤらなきゃ死ぬのか?

「宗介?今日ちょっと変だね」
「…そうかな」
「悩みがあるなら…聞くけど」

真人は外に出る事を諦めた。
宗介が何やらすごく深刻な悩みを誰にも相談できず、自分に聞いて欲しそうにしているのだと思っていた。

「じゃあ話すけど……俺真人の事が好きなんだ」
「…」

真人は「ん?」という表情で視線を斜め上の方に飛ばした。
そして宗介の方を見て小さく頷いた。
理解したらしい。

「…好きだから一緒にいたい」
「ほ…本気?好きってどういう意味の好き?あんまり良い加減な事言われても困る…」

真人の視線が今度はだんだん下に下がる。
困ったような表情をしているけど顔はしっかり赤くなっていて、宗介はそれを見てこれは押して行こうと決意した。

「本当に…恋人になりたいっていう意味で好きだよ」

視線を合わせたくて頬に触れると、真人はビクッとして宗介と扉の間からすり抜けて再び部屋の中に戻っていった。

「待って!こういう雰囲気なんか恥ずかしい!」
「…………」

なんでこんな所で突然ウブになるんだよ。
恥ずかしいというか照れ臭いのは宗介も同じだ。
宗介は自分から告白するのは初めてだった。
告白は、される時もドキドキするけど自分でするのはもっと緊張する。
だからお遊びっぽい雰囲気にされたくない。

宗介は黙って真人の慌てている様子を眺めていると、真人も真剣な表情になった。

「宗介はこういう嘘つかない」
「うん」
「へへ…なんか嬉しいな」

真人は笑って、ヨロヨロとベッドに座った。

「だから、付き合ってほしい」
「…うん」

真人がコクンと頷いたのを見て、宗介は肩の力が抜けた。
代わりに胸のあたりにふつふつ強い気持ちが湧き上がってくる。
宗介はベッドの方に歩いて真人の前に座った。

「いいの?」
「うん!」

宗介は嬉しくなって、真人にキスしてみた。
真人は照れ隠しにベッドに寝転んで布団を抱き枕みたいに抱き寄せた。

「俺誰かと付き合うなんて、中学の時おっさんに騙されて付き合ってた事しかない…」
「何その壮絶な過去」
「へへ……嬉しいなー」
「うん…俺も。だから今日はもう帰るなんて言わないよね?」

真人はブンブン高速で頷いた。
よかった。
突然寝転んでいた体を起こして、目をキラキラさせて宗介の顔を覗き込んだ。

「じゃあ今日えっちするよね!?」
「…………」

宗介は突然雰囲気が台無しにされた気になったが真人はむしろ盛り上がっているみたいだ。
もちろん嫌ではない。それに自分が恋人なんだという証としていいかもしれない。

「する」
「やったー!宗介大好き!」
「………」

こいつ、付き合うとなった途端簡単にそんな言葉を…。
呆れつつ真人の髪を撫でてやると、くすぐったそうに目を閉じた。


真人の思考回路はすぐ性に直結させる。
それは常に宗介の想像を上回っている。




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