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「俺も一人暮らししたいなあ」
しばらくすると宗介の部屋着に身を包んだ真人が部屋に入ってきた。
「真人は実家なの?」
「そうだよ。電車で50分かかる…最悪」
真人はベッドに腰掛けていた宗介の隣に座った。
宗介の部屋着は真人には少し大きかったらしく、袖や裾が少し長い。
宗介はベッドから降りてさっき買ったおにぎりを食べ始めると、真人も宗介を追うようにベッドから降りて宗介の食べる様子をジッと見つめた。
「……欲しいの?」
「だって目の前で食べるから」
「……いいよ」
「一口だけ!」
真人に手渡すつもりでおにぎりを差し出すと、真人はグイッと身を乗り出してそのままおにぎりにかぶりついた。
おにぎりを食べながら満足そうに笑うその様子がなんだか子供のようで可愛い。
「おかかだ」
真人はおにぎりの具を当て、ゴロンと後ろのベッドに首を倒して上を向くと今度はあーあと大きなため息をついた。
「なに?」
「疲れた。今日は…さんざんだったなあ」
「俺にツイッターを見られたから?」
真人はムッと口を結んだ。
言ってはいけなかったらしい。
「…ごめんって」
「宗介、もしかして俺とシたいって思ってる?」
真人はまた顔を起こして宗介の顔を覗き込んだ。
「…思ってない」
「なんだ。一発やろうと思って連れてこられたのかと思った」
「お前な…」
真人はまたベットに首を倒して、勝手に話はじめた。
「俺…ツイッターでいつもああして相手を探してるんだ。恋人とかじゃなくて…その日の相手」
「…………」
「それでさ、何度か会ってるフォロワーさんがこの近くに住んでるんだけど…この前も今日も、あっちが泊まりに来てって呼び出したくせにヤり終えた途端明日朝一番で彼女が帰ってくることになったから帰れって言われて追い出されたの!」
真人は話し始めたら止まらなくなったらしく、どんどんヒートアップしていくようだった。
「酷くない?!ありえないよね、年下だからってナメられてんの!なんだよ朝一番に帰ってくる彼女って!意味わかんない!!」
「……」
昼は見なかったことにしろと言われたのにこんな話を聞かされて、宗介はどうしたらいいかわからなかった。
「もうあの人とは会わない事にする。正直…あんまり上手くもないしさ。ブロックしようかな」
「……ブロックしたら恨まれたりするんじゃない?」
「うん?いや…恨まれるほど深い仲では……まあいいや。ブロックはやめよう」
真人は話すだけ話して満足したのか、ベッドに登ってゴロンと横たわった。
顔は宗介の方を向いている。
「…満足した?」
「ふふ」
「真人は毎日その…会ってるの?誰かと」
「毎日ではないけどさ」
「見せてよツイッター」
「ええ?」
宗介は興味が湧いてダメ元で思わずそう声をかけた。
真人は少し驚いたそぶりを見せつつスマホをいじり始めたので、宗介は自分で頼んでおきながらドキッとした。
「見て」
真人がズイッと宗介にスマホの画面を突きつけた。
見るとツイッターの誰かの…真人のホーム画面だ。
アイコンは自画像で、口元は腕で隠されていたが真人という事はすぐにわかる。そして何より…
「フォロワー多くない?」
「えへ」
真人のフォロー400人程度に対し、フォロワーが5000を超えていて宗介は驚いてしまった。身近にこんなにフォロワー数が多い人を今まで見た事がなかった。
「写真とか動画とか載せるからさ…そうするとすぐ増えるんだよ」
「………」
「動画観たい?」
「観たくない」
真人はフッと笑ってスマホをスリープさせた。
「…引いたんでしょ」
「いや、別に」
「いいよ。言いふらしたりしないなら別に。こういう話できる友達なんかいないからつい熱くなっちゃった」
「………」
宗介はおにぎりのフィルムをビニール袋に突っ込んで真人の隣に横になった。
「話し相手にならいつでもなるよ」
真人は目を丸くして宗介を見た。
そして安心したように笑って目を閉じた。
真人から寝息が聞こえてしばらく経つと、前のように真人の腕が腰に巻き付いた。
やっぱりこういう癖らしい。
それから一週間ほどたった。
あれから真人は家に来ていないし、学校でも特に話していない。
でもそれはまあ今までと同じなのであまり気にすることではない。
課題を済ませて清々しい気持ちでベッドに横たわると、宗介は突然真人の事が頭によぎった。
あいつ、今日もどっかの誰かと会ってるのかな。
「………」
ちょっとした出来心だった。
宗介はあの日見せてもらった真人のツイッターのユーザーネームを検索してみた。アイコンはたしか、あいつの顔写真で…。
フォロワーが多いからなのか案外簡単に見つかった。
タップしてツイートを見てみると、つい1時間くらい前に動画をアップしていた。
1分くらいの、真人と知らない男の人が交わっている動画だ。
二人とも顔は見えないけど体格的に組み敷かれている方が真人だろう。
「うっわ…マジか」
動画も載せてるって言ってたけど、まさかこんな濃厚なやつだったとは。
『んんあっ…、きもち…』
すぐ辞めるつもりだったのに動画から聞こえる真人の声と白くて細い体に釘付けになってしまった。
男に性的な魅力を感じた事は一度もなかったのに、不快な気持ちは全くなかった。
真人ってこういう声出すんだ。
真人の体って、こんな感じなんだ。
一つ、また一つと真人の動画を漁っていく。
俺のベッドで一緒に寝て、お腹に巻き付いてきたあいつはこんなにいやらしい奴だったんだ。
そう思うと宗介はだんだんたまらない気持ちになり、動画の中の真人を見つめながらついに部屋着のズボンに手をかけた。
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