下(2/3)


夜中になぜだか自然と目が覚めてしまった。

なぜ、と思いふと横を見るといつの間にか俺の布団に入っていた愁がじっとこちらを伺っていた。このせいか。

冷静に驚いてから名前を呼んだ。


「寝れないのか」

「寝てる」


いや‥。

愁が珍しくしがみついてきた。
明日には俺は帰るから、
いつ頃会えるかわからないから、

愁も不安だろうか?


背中を撫でてやる。
またすぐ会えるからと、根拠もないことを今言ってもいいんだろうか。

結局なにも言わずに、今度は朝まで眠った。












「ばいばーい」

「軽いな」


翌日、荷物を持って玄関に立った俺に、靴を履き替えもしない愁がゆるゆると手を振った。

ここでお別れなのか?
愁の家族もいるから下手に手を出せない。
駅まで見送りにくるかと思ったのに。


「じゃあ…元気で」


あっさりした別れだな、おい…と思いながら外へ出て扉を閉めるために振り向くと、愁が靴を履いていた。
おい、どっちなんだ。


「直樹は駅の道わからない?」

「ん」

「ん」


あ、マネされた。

家を離れて人通りの少ない道を2人で歩きはじめる。


「送ってこーっと」

「たすかる」

「ちゅーはするんだっけ?」

「ん……」


するんだっけというのはつまりしてほしいということ、だろう。



顔を近づけたときにはじめてわかったことだが、愁の目にはうっすら涙が張っていた。

(らしくない、こともない)

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