ガラァン!

重いごみ箱が音を立てて倒れた。
あーあ、て見下ろして、でもスッキリ。転がったごみ箱からぶち撒かれたごみが、鈍い音を放つ街灯に照らされて、またあーあって


このままほっとこう。
そう思ったんだけどね


「....」

『あ....』


ごみ袋を持って階段から降りてきた男の顔は、どうしたらいいのかと迷っていて
私は慌ててその散らばったごみの前で弁解し始めた。くそ、隣人め、タイミングが悪いんだよ

『あ、あぁー!すみません、えっと、ぼーっとしちゃって、』

「(ぼーっと?)あ、手伝います...」

『いいですいいです!
片付けておくんで!』



思いっきり両手を振って拒否を示す。
だって恥ずかしいしさ、これ以上関わってほしくなかったし
なのに彼はスタターッと見事に散乱したごみを手でかき集めはじめた





このボロアパートの汚い住人が出した汚いごみを、そのゴツゴツした手で嫌がろうともせず、集めてるの。誰だってビックリするでしょ?

一瞬の思考停止から目覚めて、私も彼と同じようにしゃがみ込んでごみを集める。
すると横から慌てたような声が聞こえた


「大丈夫っすよ、手
汚れるじゃないですか!」


あんたもじゃないか

地面から顔を上げれば、病弱な街頭に照らされてまるで天使のように錯覚してしまう。
そしたらとんでもない優しさが心を急にあったかくするもんだから視界が滲んできた


『ありがとうございます...』

「いや、大丈夫だけど、
もうごみ箱に当たらないで
くださいね」



ガラァン

この時のごみ箱に蓋を閉める音は聞こえなかったと思う
作らない笑顔に目を奪われてただ息をしていただけ










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