6年の月日が流れ、行方不明だった愛する人が帰ってきて
毎日のケアを怠らずにその辺の女の子よりも綺麗だった彼は、以前では考えられられない姿をしていた。


今まで自分の中で保ってきた何かを失してしまった彼の、心此処に有らずな姿を見るのが堪えられず
帰ってきた彼に精一杯の施しをした。

バイトも増やし、腕によりをかけたご飯を作り、時間があればどこかに出かけ


今日も久々の休みを彼と近くの大型デパートに向かい、たまに目が合えば微笑むその顔にズキリと傷を増やした。
彼は、救われてはいない。




『そろそろ晩ご飯だね!
どうする?この近くに
とっても美味しいパスタが
食べれるお店があるの!』

「そうか」

『あ、パスタの気分じゃ
ない?そしたら少し行った所に
美味しい中華料理屋さんが
あってね...』

「ナマエ。家に帰ろう」





久しぶりの休日。
時給が良いことだけで選んだ慣れない職場を毎日毎日休むことなく働いて
まるで表情を変えない聖也に、私は、最悪の場面さえ考えてしまった。
無言の車内
向かう先は安いマンションで
じっと窓の外に目を向ける聖也の横で私はグルグルと感情を回しながらハンドルを握りしめていた。


そしたら、何て言ったと思う?
1人で切羽詰まってる私に向かって


「無理すんなよ」


だって。いっきに視界が歪んだの。ああこれが崩壊って奴だろうねって

大声で叫んでやろうとした時に、ふいに聖也が車窓を開けた
沢山の騒音が助手席の窓から一気になだれ込んでくる中、その中である音楽が聞こえたの。新世界より「家路」





「久しぶりだな...この曲。
もう5時か」


カーステレオに目をやると、本当だ。もう5時だ。



『...ご飯どうする?』

「カレー」

『良かった。
ルーまだ合ったわ』




ゆっくり帰ろう
焦らないで、またゆっくり築き上げていこう


薄い溜め息をついて、ハンドルをゆるく握りなおした
















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