3月9日。



宮城代表決定戦の準決勝で負けてしまったあの日がつい最近のように感じるが、月日が経つのはあっという間で、今日私達はこの学校を卒業する。




結局あの後みんな堪えられずに目が真っ赤になるまで泣いてたっけ。
それで次の日鏡をみたら目が腫れてて大変だったんだよなぁ。
マッキーとまっつんには馬鹿にされるし岩ちゃんには心配されるし徹とは酷い顔見せるのが恥ずかしくて顔合わせないようにするので必死だったし。







そんな3年間の思い出を振り返りながら私は今、卒業式の後の最後の帰りのHRも終わり誰もいなくなった教室で窓の外を眺めていた。





窓の外には泣きながら友達と抱き合ってる人、卒業証書を片手に楽しそうに写真を撮る人…みんな思い思いに最後の思い出作りに精を出していた。



そんな中、ひときは大きな人だかりが出来ている場所があった。
何事かと思い目を凝らしてみるとそこにはこの3年間、ほぼ毎日と言っていいほど顔を合わせていた我がバレー部の部長、及川徹の姿があった。
どうやら及川の第二ボタン欲しさに女子達が群がっているようだった。
その数はざっと見た感じでも30人は越えているだろう。




そのあまりの人数の多さに思わずため息が漏れてしまう。




『やっぱそうだよねぇかっこいいもんねぇ。わかるわかる』

と半ば諦めモードでボソッと呟く。





そう、なにを隠そう私はあの人だかりの中心にいる及川徹に片想いをしているのだ。





彼と初めて出会ったのは中学3年、準準決勝で負けてしまった女子バレー部の私達は準決勝まで進んだ男子バレー部を応援する為に応援に行ったのだ。
その時の対戦相手の中に彼がいたのだ。
試合開始の笛が鳴り終了の笛が鳴るまで、私は自分の学校の応援するのも忘れるくらい彼に釘付けになっていた。




今思えばあの時からもうこの気持ちは芽生えていたのかもしれない。





彼の素晴らしいプレーを目の当たりにした私はもっと彼のプレーをみていたい。今度は同じチームとして。という想いから、「及川は高校は青葉城西に決めたらしい」という噂だけを頼りに私も青葉城西の試験を受け、見事彼と同じ青葉城西のバレー部マネージャーとして近くでプレーを見ることが出来るようになったわけだが………






『はぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜』
思わずまた大きなため息が漏れる。
3年間多分あの人だかりの女の子達の誰よりも近くにいたはずの私だが、未だに自分の気持ちを伝えられていないのだ。
更に言えばこの気持ちが恋だということに気がついたのも最近のことである。




てっきり彼のプレーに魅せられていたものだと思っていたが、どうやら私が魅せられていたのは彼の方だったようだ。




しかし気がついたはいいものの時すでに遅し、こんなに近くにいたのに今更好きだと伝えるのもなんだか小っ恥ずかしくて現状に至るのである。




(ああ…できるなら青城バレー部のマネージャーとなったあの日に戻りたい……)



そんなことを思いながらぼーっと人だかりの中心にいる想い人を眺めていたら目があったような気がした。




いやいや、いくら好きだからって流石にそれは…夢を見過ぎだぞ萩野藍。よく考えろ、大体あそこは校門前、私は校舎の5階のしかも一番端の教室から彼のことを見ている。いくら彼の目がいいからって流石にそれは…




しかしそれはあながち間違っていたわけでもないらしく、仕切りにこちらに手を振っているように見える。しかもいい笑顔で。
仕舞いには『藍ちゃーーーん!!!』と名前を読んでくる始末。




こんなに離れているのに好きな人が私に気がついてくれるだなんて本来ならとても喜ぶべきシチュエーションなのだろうが、今の状況でははっきりいって素直に喜べない。寧ろ非常に困る。



なにせ周りには私と同じように及川に想いを馳せている女子達ばかり。そんな中で〇〇ちゃんなどと女子の名前を嬉しそうに呼んだら、周りの子達は間違いなくいい気はしないだろう。下手したら恨まれる。




彼のことは好きだがそれ以上に自分の身が可愛いので私は気が付かないフリをすることにした。




遠くからまだ「ちょっと!!藍ちゃん?!!藍ちゃーん!!!」と聞こえてくる。どうやら助けてもらいたいらしい。
ごめんね徹さん…貴方のことは好きだけど…私、まだ死にたくないの……っ




その後もしばらく名前を呼ぶ声が聞こえたが、どうやらもう諦めたらしく気がついたら私の名前を呼ぶ声も人だかりも消えていた。



ちょっと悪いことしちゃったかな…そう思いながらもだけどやっぱりあそこで手を振り返してたら間違いなく今日が命日になっていただろうと思い、私の判断は間違っていなかったと言い聞かせる。





(どうせ今更告白するなんて勇気もないしここにいてもなんにもないからそろそろ帰るか…あっ、どうせなら帰る前に記念に岩ちゃんにボタンもらいに行こうかな。第二ボタンは無くてもボタン何個かなら残ってそうだし)




そんな岩ちゃんに失礼なことを考えながら荷物をまとめ教室から出ようと扉に手をかけた瞬間、その扉が勢いよくガラガラッと音を立てながら空いた。
あれ??私今手をかけただけだったよね?




おかしいなと思い視線を上にやるとそこにはなんとついさっきまで窓の外から眺めていた彼が目の前に立っていたのだ。





「えええ?!!!!徹??!!!!!」



あまりの驚きについ大きな声を出してしまった。
その瞬間「しーっ!!静かに!!!」と口に人探し指を当て焦っているような表情をした彼に口を手で塞がれた。




その姿をみるとボタンら言わずもがな、ネクタイ・ベルトまでもがなくなっていて服はところどころ破れている。例えるならまさに死闘を越えて生き残った勇者のような姿だ。





どうやらあの取り巻きから逃げてきたらしい。
お気の毒に…と思っていたら遠くから「及川さーんどこ〜〜〜?!!」という声が聞こえてきた。
その声にビクッと反応した彼は急いで教室に入ってきて扉をしめる。


そしてそのしばらく後から教室の前を何人かの女子が及川の名前を呼びながらパタパタと走っていく足音が聞こえた。



その足音が通り過ぎた後、彼は大きく息を吸ってからはぁぁぁぁぁあ」と大きなため息をつきながらその場に座り込んだ。
流石にこれはすこし同情する…





座り込んだ彼の顔を除き混みながら『大丈夫?バレーの練習をした後並に疲れてるけど』とちょっとふざけた調子で話かけると「バレーの練習のほうがまだマシだよ…」と苦笑いを浮かべる。
どうやら相当疲れているらしい。





そんな姿が少し可笑しくて堪らず笑ってしまった。
笑ってはいけないと思いつつも思えば思うほど自分の感情とは逆に笑いが込み上げてくる。



「ちょっと!!こっちは本気で大変だんだからね!!っていうか藍ちゃん俺が名前読んでるの気づいてたクセにわざと聞こえてないふりしてたでしょ!!!」


『いやああれは不可抗力っていうかまだ死にたくなかったっていうか…』



図星をつかれ思わず言葉を濁す。
徹はそんな私の姿をみて「あーやっぱり!!藍ちゃんの薄情者!」と頬を膨らましている。




このままでは私の立場がないので慌てて話を逸らす。





「いやあでも徹、ほんと見事なまでに何も無いね」


「あー…もうホントね。あの子達、女の子のくせに何処からあんな力が出てくるんだか…」
そういう徹の目は何故か遠くのほうを見ているようだった。いけない、この話も駄目だったか。




「でもさ、徹の第二ボタンゲットした子は幸せ者だろうね〜!だって徹のことが好きな人があんなに沢山いるのにその中から一つしかない本命の第二ボタンを貰えるってことだよ??私なら絶対家宝にするね」


と咄嗟にフォローをする。
しかし、思わず本音が漏れてしまったことに気がつき、慌てて「あっでも、別に私が徹の第二ボタンがもらえたらっていうわけじゃなくてもし私が好きな人から第二ボタンをもらえたらっていうことね」と付け足す。



それを聞いた徹は
「じゃあ藍ちゃんは一番の幸せ者になるってことか」
と、突然意味のわからないことを言い出した。



『??え??なんで今の話の流れから私が幸せ者だってことになるの???』



なにがなんだかわからない私に「まあまあ、とりあえず出して」と、ポッケをゴソゴソと漁りながら言う。


とりあえず言われるがままに手のひらを差し出すとその開いた手のひらの上にに置かれたのは城西の男子制服のボタンだった。


『これって…』


「じゃーん!!!及川サンの第二ボタン!!死守するの大変だったんだから!」



『??なんでこれを私に?』



今一番の率直な疑問を彼にぶつけると彼は「いや、だからそれはその〜…」と目を泳がせながら人差し指で頬を掻いている。



いや、これはすごく嬉しいことだ。
嬉しいことなのだが。






『第二ボタンって普通好きな人に渡すものだよね?』


「えっいやうんだから…」


『そしたらなんで私に…あっ、もしかして徹好きな人いないとか??だから私に???』


それを聞いて「いや違うから!」と、ズコッとコケる徹。


いやいやいや、だってそうじゃなかったらこれってつまり…いや、ない。
もしかしたらの想像に途端に恥ずかしくなってしまい咄嗟に『あっ!じゃあ私の友達が好きでその子に渡してもらいたいとか!!』と言いながらさり気なく顔を逸らす。




しかしその途端、あ〜〜〜と言いながら自分の髪をぐしゃぐしゃにしたかと思えば、いきなり両肩を掴まれた。
思ってもみなかった徹の行動にびっくりした私は思わず徹のほうを見てしまった。









そこには、窓から差し込む夕日のせいもあるのか今まで見た事のないくらい顔を真っ赤に染め、真剣な表情をしま徹がいた。




その真剣な眼差しに私も目が逸らせなくなる。




「だーかーら!!俺は藍ちゃんが好きなの!!!」


えっ………???ほんとに??
だって…ってことはつまり……




『私も…』
気がついたら言葉が口から漏れていた。



「えっ??」




『私も徹が好き。ずっとずっと好きだった』
そう言って今までで一番の笑顔で笑ってみせた。





すると徹は「よかったあああっ」と言いながらその場にヘナヘナとしゃがみ込んだ。





『えっ、ちょっと大丈夫?!』
突然しゃがみ込んだ徹にびっくりし慌てて傍によろうとしたら「待って」と制止される。




「俺、多分今すごい顔してると思うからちょっと待って」
そう言って顔を下に向けている徹の耳は心做しか真っ赤な気がした。




『なにそれ』




そんな徹の姿がなんだか可笑しくて愛おしくてまた自然と笑みが零れてしまった。























「岩ちゃん岩ちゃん聞いて!!俺、ついに藍ちゃんと付き合うことになりましたー!」


「………萩野、クソ川になんか弱みでも握られてんのか?」


『やっぱりそう思う?』


「ちょっと2人とも!!!」


こうして私たちは晴れて学校を卒業式すると共に、片想いも卒業することとなったのでした。





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1度描いて見たかったthe青春の1ページのようなシチュエーション。
恋愛慣れしてそうなのに意外と初心な反応をする及川サンも可愛いなと思いました( ˘ω˘ )

*PREV END#

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