「あっ徹!!おはよー!」

と、待ち合わせ場所の時計塔の前からこちらに向かって満面の笑みで手を振っている彼女。

そう、今日は久々のオフ。
密かに想いを寄せている彼女と2人きりの初めてのデート。




…………………………………の筈だったのに。


「…なんで岩ちゃん達までいるの?」


「どっかの誰かさんが1人で抜け駆けしようとしてるって風の噂で聞いたんで」

「クソ川と2人きりで買い出しなんて色々危なそうだからな」

「面白そうだから来ちゃった」

「ただの買い出しに抜け駆けもなにもないから!!っていうか色々危なそうってなに?!マッキーに至ってはもう完全にただの暇つぶしだよね!!!」


しかし当の本人達は俺の心からの叫びを無視して「何処行く?」「何買うんだ?」などと話している。
折角部長という立場をフル活用して青城バレー部のマネージャーである彼女と2人で買い出しに行くという約束をとりつけるところまで行ったのに!岩ちゃん達のバカ!!!


『今度のオフの土曜日、合宿の買い出し行くから開けといてね!よろしく!!って言ってたからてっきり(みんなに伝えといてね)よろしくって意味なのかと思ってたんだけど…もしかして違った?』

目に見えて俺のテンションが下がっていくのがわかったのか、藍も少し不安そうに顔を覗いてくる。


これはしまったと思い、咄嗟に笑顔をつくり
「そんなことないそんなことない!!さっ、買い物にレッツゴー!」
といつもの調子で腕を上にあげてみせる。



それを見て安心したのか彼女も『ゴー!』と腕を上げている。
ああ神様、なんなんでしょうかこの可愛い生き物は。



「2人デートしてあわよくばそのままお付き合いになんて思って思ってた奴がよく言うよね」
とボソッと言ったマッキーの言葉を聞き逃すことがあるはずもなく、その言葉を遮るように「さー買い出し買い出し!!!」と大きな声で言いながら少し早歩きでお店に向かって歩き出した。












「萩野、ポカリの粉末ドリンクってこれでいいのか?」

『あっそうそう!ありがとう岩ちゃん!!』

「はいカレー粉」

『マッキーもありがとう!』

「あとなに買うの??俺カート押すから」

『えっ??まっつんいいの?!やさし〜〜〜』

「…あのー藍ちゃん?」

『あっ、ごめん徹!!今忙しいからちょっと待ってて!』



どうしてこうなった。
お店に着くまでは俺が道案内をしつつ、さりげなく萩野の隣をキープしていたのにお店について買い物を始めてからずっとこんな調子だ。



あの3人、(いや、岩ちゃんの場合はきっと自覚はないのだろうが)絶対わざとだ。
そっちがその気ならこっちだってなにがなんでも藍ちゃんの隣を分捕ってやる!!
しかしその考えを察したかのようにすかさずマッキーとまっつんが藍ちゃんを挟むようにして立つ。

更にマッキーは「後は何買うのー?」と言いながら
藍ちゃんの肩にさりげなく手を回し、「これとか買ってないんじゃね?」とメモを覗き込む。
そして俺のほうを見て、ニヤニヤしながらこれみよがしにしてくる。



腹立つ!!!物凄く腹立つんですけど!!!!



しかし、間に挟まれている当の本人も『あっほんとだ!!』と随分と楽しそうだ。

せっかくのオフでしかも大好きな藍ちゃんと一緒にいるのに全然楽しくない!!!!




そんなこんなで結局買い物の間マッキー、まっつん、そして自覚なしの岩ちゃんに邪魔されてなにもできずに買い出しは終わった。


せっかく誘ったのにこのまま終わるのは納得がいかない。
なにか、なにかないか…!!!
そんなことを考えながら歩いていたら丁度アイス屋さんが目に入り、最後のどんでん返しに希望をかけてアイス屋に寄ろうと提案する。

すると彼女も『あっいいね!丁度甘いものが食べたかったの!!』といい、他の3人も「及川の奢りなら」となんとか説得することがでした。
この際彼女と少しでも長く一緒にいられるなら奢りでもなんでもいい。

そして彼女とマッキーはストロベリー、岩ちゃんと俺はバニラ、まっつんは抹茶のソフトクリームを頼んで席につく。


「松川抹茶のアイス頼むなんてなんか親父クセェな」

「言えてる」

「うっせ。花巻だってストロベリーとか女子かよ」


そんなやりとりをしている3人を横目に自分も頼んだアイスを食べる。
はーぁ、こんな筈じゃなかったんだけどな…
そう思いながら目の前で美味しそうにアイスを食べている彼女のほうに目をやるとバッチリと目があってしまった。
まさか目が合うとは思っていなかったので咄嗟になにかいい言い訳はないかと言葉を探す。


「藍ちゃんの食べてるのも美味しそうだね〜」


と、少し笑ってみせる。
あーあ、なんて当たり障りのないことを言ってしまったのだろう。


しかしその次の瞬間、耳を疑うような言葉が彼女の口から漏れた。


「一口食べる?」


「え?」


突然の言葉に思わず聞き返してしまった。


「だーかーら!!一口食べる?って聞いてるの!ずーっと私のほう見つめてたからそんなにこれが食べたいのかなと思って」


と言いながらほら、と自分の食べていたソフトクリームを俺のほうへ差し出してくる。


この想像もしていなかった嬉しい展開に胸を高鳴らせつつも「じゃ、じゃあ遠慮なく…」と顔を近づける。
だってこれってつまり………つまり……!!!
そう思いながら口を開けたら何故かついさっきまで目の前にあった彼女からの嬉しいプレゼントは岩ちゃんの口の中へ消えていた。
よく見ると彼女のソフトクリームを持っていた手を自分のほうへ引っ張りそのまま食べているようだった。
しかもそれだけでは終わらず、「ん?お前口の端にソフトクリームついてんぞ」と彼女の口についていたソフトクリームを自分の親指で拭い、その拭った親指舐めたのだ。



『??????へ???』
彼女も突然の出来事に頭がついていっていないのか完全に硬直してしまっている。

「岩ちゃん?!!!!!」

「わーお」

「うわぁ〜やるねぇ」


いくら鈍感で自覚のない岩ちゃんだってこれはちょっとやり過ぎじゃない?!!
なに今の!!!!!!


「ちょ…岩ちゃん!!!俺が貰おうとしてたんだけど!!っていうか今のなに?!!俺の見間違い?!!」



「及川にやるのが勿体なかったから俺が食べた」

そういいながらいちごはやっぱ甘ぇなと呟く。



「いやそれもそうだけど!!そっちじゃなくて!親指で今!!!」


「??ティッシュがなかったから親指で拭ってやっただけだろ???つーかさっきから大きな声でうるせーぞクソ川」


なにその男前な返答!!!!流石岩ちゃん!!抱いて!!!じゃなくて!!!!!!


「俺のソフトクリームがあああ岩ちゃんの馬鹿!!」

「なんだようるせーな…仕方ねぇから俺の一口やるよ」

「いらないから!!!っていうか俺もバニラだし!!!」



そう言いつつガックリと肩を落とす。
ほんとに今日は最悪の1日だ…



そんな俺をざまあと笑いながらからかってくるマッキーとまっつんに言い返す元気さえ今はもうない。


そんな俺を見かねたのかいつの間にか彼女も『??なんかごめんね?』と慰めてくる始末。


ああ彼女に気まで遣わせるなんて俺も最悪……

すっかり消沈してしまった俺を横目に彼女はなにかを思いついたようにポンッと手を叩き『そうだ!』と言いながらカバンをガサゴソと漁り始めた。

そして『あった!!!』という彼女の手に握られていたのは2枚の遊園地のチケットだった。


「これ、こないだ商店街のくじ引きで当たって。一緒に行く人探してたの。ソフトクリームの代わりっていっちゃなんだけど」



そう言って握っていたチケットの1枚を俺に渡してきた。


「俺にくれるの?」

『うん』

「ほんと?」

『うん』

「一緒に?」

『他に誰と行くの』


と、彼女は少し笑いながら答えた。


今日は最悪の1日だと思っていたけどどうやら最高の1日の間違いだったようだ。










「藍ちゃん!!次は絶対2人でだよ!!!約束だからね!!!!」

『わかったってば』

「なにこの結末。気に食わないんだけど」

「俺も」

(なんで胸の辺りがムカムカするんだ…?アイス食いすぎたか…??)



まさに災い転じて福となす。






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及川→主で書くつもりがいつの間にか
岩泉(無自覚)→主←及川の三角関係になってました。
及川サァンの小説はギャグを入れたくなるのは何故だろう……




*PREV END#

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