*12回目、混沌ティーダ
「見損なった。」
子供は悲しそうな責める声で言う。
「見損なったよ。君は僕達や、君の父さんを恨むかと少しだけ思っていた。でも例え記憶が無くなっても、あの娘を傷付けるようなことだけはしないと思いたかった。」
それが、騙されていたとしてもね。少年は一歩、前に出てくる。後ろに女性が二人続く。
「何言ってんだよ!」
「スピラのこともエボンのことも忘れていいわ。ただ、貴方がどうしてあそこまで動かされたか、何を守りたかったか、忘れてほしくなかったの。」
「お前は守りたいと言った。私達もあの娘を守りたかったし、お前を助けたかったから力も貸した。それなのにお前は今、ここまで堕ちた。」
ティーダは俯き、目を曇らす。消えるのが怖いと誰にも言えずに我慢した、シンの連鎖を知った時の顔とそれは同じ顔だった。
「…海を、作ってくれるって言ったじゃないか。」
女性二人が驚いて顔を見合わせる。一番前にいた少年は伏せていた顔を上げ目を見開いた。
「もう戦わなくていいって言ってくれたじゃないか。あの娘と、ユウナと生きてもいいって。」
「…君、覚えているの?」
「それなのに俺はまだ戦ってる。しかも相手はあの娘と親父だ。抗おうにも神に逆らったクラウドは殺されてしまったし、自殺する位ならあの娘の盾として死にたい。俺にはそれしかもう選択肢は無いんだ。」
「…ごめん。君がそこまでわかっているとは思わなかった。」
「お前が謝ることじゃないだろ。」
さっきの言葉は効いたけどな。乾いた笑いを太陽は顔に張り付けながら、顔を上げて武器を持ち直し、静かに足元へ切っ先を向ける。
「ほら、もう石の中に戻らなきゃだろ?俺は俺であの娘を守るからさ。」
お前達もあの娘を守ってやってくれないか。
音に成らない声を祈り子は聞いた。混沌軍に属する彼なりの配慮だろうか、それとも少しの優しさからくる臆病さからきたものなのかは、最後までわからなかった。地面に向けられた切っ先は前に向く。幻光虫が舞う。青年は一歩踏み出す。祈り子達は腕を大きく動かした拝礼をして消えてしまった。
後に残されたティーダは祈った。多分祈り子にでは無い。この世界でも何か大きな力のもとでしか生きることのできない自分と、父親と、祈り子達と、愛する少女のために。
亜麻色は風に靡いて
全てを知って踊る私は、無様だろうか