ふわりふわり。
異なる2対の触手がしなやかな体の周りをたゆたう。彼女、そもそも彼女かどうかわからない、自分と同じ世界からきた相手は今までに見たことの無い顔をして小さな自分(いや、小さくなど無い。彼女が大きいだけなんだ。)を見下ろしていた。
純粋な世界を破壊するための機関の彼女がこんな顔をする等と思ったことさえ無かった。

「おそらく言葉にできる理由など無いのだろうな。わしは駒にすぎん。だからお前を殺すのにも躊躇が無い。」
「僕を簡単に殺すのはあなたが魔物だからじゃないの?」
「かもしれん。だがな、信じられんかもしれないが魔物にも心はある。」
「心?」
「そうだ。慈しむことも、憎むことも、心があってこそだ。」

その細く白い手が兜を沿って頬を撫でた。慈しむような、愛しい人を撫でるようなその行為はオニオンナイトに懐かしい感情を思い出させた。優しい姫が、気さくな男が、清らかな巫女が、真っ直ぐな王子がそうであったような、手だった。

「貴方は世界を滅ぼす仕組みなのに、貴方の手は世界のように優しい。暖かくて、懐かしくて。もとの世界にもどったら、多分もう会えないけれど、もしも万が一出会うようなことがあれば、またこんな風に優しく僕達を撫でてくれませんか。」

妖女はゆっくり目を細めて頷いた。もし彼女が人間だったら、その柔らかい肌に唇を落として愛しているというのに。共に生きる道を必死で探すのに。しかし、残念ながら彼女は人では無かったし、自分は、自分達は光の戦士でしか無かった。そこにあるのは、ぽかりとした孤独だ。分かり合えないというのは、共に生きることができないということは、寂しい。

「そうだな、小僧。元の世界に戻れば、お前を引き寄せて撫でてやろう。悲しみや辛さに目を焼き付けないようにわしが全て葬ってやろう。」

彼女の優しさは永遠を孕む。人間には理解できないその長さ。その暗闇を含んだ言葉が戦闘の合図だった。

剣を握る手を更に強める。息を吐く。大丈夫だ。彼女には勝つ。他の自分達の戦士がそうであったように。自分の元の世界にいた戦士達がそうであったように。

「乗り越えていけ、オニオンナイト。越えられぬ壁など、どこにある。お前達は騎士であろう。」

幼いながらオニオンナイトは騎士である。騎士はゆっくり剣を振りかざし、空気を切る。

「そうやって僕を惑わそうとしても無駄だよ。あんたのような、破壊の機関がそんなこと望むはずがない!」

氷塊が出現し彼女を斬り裂こうと放たれる。その氷塊を弾き飛ばす彼女を追いつめるように右足を踏み出し、剣を振るう。彼女が嗤って避ける。そうだ、答えはそうだ。この関係に、愛しさや優しさなど必要など無いんだ。


幕開け


世界を救うのも滅ぼすのも、そこに人の感情など、必要無いのだろう。


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