※ACの後です





意味も無いけど、死にたくなった。
自分で集め、揃えたパーツ達は今日も美しい。完全だ。

だから、死にたくなった。ああ、この感情を誰か理解してくれると嬉しいのだが。拗らせてしまった奇妙な感情を理解してくれる程、人は優しくないし、秀でてもいない。それでいいのに、これまでそれで満足していたというのに。なぜ、いま。

「離してっ…!」
「ほぉら、お姉さん俺達とおいでよ。楽しいことでもしようじゃないか」

クラウドは女装をしていた。自分でも認めたくないが、この姿は人目を惹くのには充分だ。だが男であるクラウドのプライドを打ち砕くにも充分である。それでも、これは仕事のために仕方なくやっているのだ、そう自分に言い聞かせてなんとかスカートに足を通す。断じて彼の趣味では無い、断じて。
けれどもクラウドの女装は以前と同じように完璧だったらしく、スラムに住み着く男達はクラウドを自分達の住処へと連れていこうとした。冗談では無い。まだ届け先に荷物も持っていってないというのに。大きく、クラウドは心の中でため息を吐いた。

「だから、離せって!」
「元気な姉ちゃんだねぇ。さぞ俺達の上でも艶やかに動いてくれるんだろうよ」

クラウドはあまりの事に自分の口がぽかんと開いているのがわかった。自分が男である事より、下品な話を聞かされる事がたまらなく嫌だった。なお、男達が下品に笑う。今度こそクラウドは男達への制裁を本気で考え拳を握った時だった。

「やめてやれ」

一人の男の手が宙で捕まれる。それを仲間達もぎょっとして見ていた。急に伸びて来た腕。長い日本刀。あの、長い銀髪。

「サー・セフィロス!」
「彼女は私の連れ合いでな。離してくれないか」

言葉は柔らかいが口調は冷たい。相変わらず重く、冷たい空気を纏った男である。その威圧感に周りの男達が彼を見て逃げるように去った後、金髪の美女と英雄は誰が作ったのかわからないこの重い空気を振り払うように、揃って深く息を吐いた。

「死んだんじゃなかったのか」
「思い出にはならないといったろう」
「なにもこのタイミングで来なくても…」
「お前の女装なら見たことがある。問題はあるまい」
「…ある。どこぞの彼氏かと思った」
「そういえば、口紅の色変えたんだな」
「話を聞け。尚更恋人っぽいことを言うな、気色悪い」

クラウドが声を荒げるとやれやれとセフィロスが首を横に振った。二人は世界をかけて戦った事すらあるというのに、流れる空気は穏やかだった。知己のようだと、クラウドは思う。まともに面と向かい合って話したことすら無い、それ所か殺し合いまでしたというのに奇妙な話だ。

「首を跳ねてやろうか。それか胸を突いてやってもいい」

クラウドは横にいる英雄の緑色の眼を見た。ジェノバ細胞に侵された眼は同じ色のはずなのに、クラウドのそれよりずっと深い緑色に見えた。

「………」
「なに、痛みは無い。一瞬だ。なんならお前のコピーでも作って周りも安心させてやろうか」

クラウドは息を止めて、セフィロスの顔をじっと見ていた。相変わらず何も読み取れない表情だった。ころしてくれ、とクラウドは危うく言いそうになる。きっと彼なら一瞬で自分を殺してくれる。ティファや仲間達はクラウドの死を途方も無く悲しむだろう。しかしセフィロスの言う通り、もしかしたら完全なコピーが存在しクラウドの代りに生き続けるのかもしれない。

セフィロスコピー。自分がそうであったように。それならば今の自分が存在するのになんの意味があるというのか。かつて多くのセフィロスコピー達が犠牲になった。彼らの屍の上に自分はいる。
重たい。苦しい。許してほしい。けれども彼らも、星のために祈り死んだ彼女も、自分を連れて逃げてくれた旧友も、誰も答えてくれはしない。助けてくれ。クラウドは唾を飲み込む。そう言ってしまえたらどれだけ楽だろうか。

「ありがとう」

クラウドはできるだけ明るい声で言ったつもりだ。その声にセフィロスは呆れたような、大きなため息を吐く。クラウドは、自分はやっぱりこの英雄の心を失望させるのが上手いなと思っていた。

「言っただろう、絶望を送ろうと。今にその希望がお前の中で腐るだろう、そうすれば私がいなくとも自然とお前は絶望する」
「それでも、いいさ」
「相変わらずお前は挫けんな。いい加減投げ出せば楽なものを」
「だから言っただろう。何もかも愛しいんだ、俺は」
「私も…俺もそうあるべきだったのだろうな」
「いいさ、投げ出してしまえば」
「ほう、また世界の危機が来てもお前が英雄となって救うか」
「その時が来たらな。でも、誰だって投げ出したくなる時もある」
「ほう、世界を救ったお前でさえか」
「俺はいつだって投げ出したいんだよ」

今度は、殺してやろうかと英雄は言わなかった。その代り、この男にしては嫌に自信の無い、一般的に言えば悲しみに暮れたような顔をしていた。

クラウドは思う、こいつ真面目だなと。それから自分がこの孤独な英雄の傍にいたとしたらその悲しみを少しでも拭うのにと一瞬でも考えた自分をおこがましいと思って遂には口を開かなかった。





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