※マキナ擬鳥化
完全に私得パロです、すみません




「愛なんて必要ないだろう」

それがここ最近の彼の口癖だった。

第3研究所の一番奥にある第12棟に彼はいる。第3研究所とはチョコボ専門の研究所であり、施設は12の棟から構成されている。ほとんどの棟はチョコボ舎と研究部屋が併設されていたが、第12棟だけは違った。そこにはマンションのような居住区だった。その居住区にいるのは現在1羽のチョコボだけだ。そう、彼は人では無くただの鳥だった。

今から5年前、新種のチョコボが発見された。そのチョコボは成鳥すると人の姿を取る事からヒトチョコボと名付けられた。人に擬態する性質を持ったヒトチョコボは、不足した人材を補うためにすぐに労働市場にまで流通した。
だが、ヒトチョコボが擬態する時間は長くても3時間であることがわかったため、現在では市場に流通させる事は禁止となり、個体数の少なさから国に管理することが決められた。
この研究所に飼われている彼も、その中の1羽である。名をマキナと言う。黒の毛色をした、2歳の雄のチョコボだ。


クラサメは第3研究所の所長であり、マキナの担当の研究者だった。マキナを卵の状態で保護し、ここまで育てて来たいわば親代わりでもある。普通のヒトチョコボならこういった施設で飼われる事はあっても、長期間の研究対象になることは少ないのだがマキナは違った。
記憶力、言語能力が極めて高く、中でも擬態する時間は最長28時間と他のヒトチョコボを圧倒的に凌駕していた。しかも、好奇心も強いため知識もある。クラサメも、一緒にいる時はマキナが好んで擬態しているため、普通の人間といる感覚によく陥った。

そんなチョコボらしからぬマキナが最近クラサメに愛とはなにかよく問いただすようになった。クラサメが説明しても理解できないらしい。当然だ、彼はチョコボである。情はあっても愛は無いのだ。けれどもそういった行為はマキナが成鳥となり、繁殖することを望んでいるのだろうとクラサメは受け取った。


マキナのお見合いはちょうど雌のヒトチョコボが保護されたため、とんとん拍子で決まった。クラサメは搬送されて来た彼女を見て、その優美さにマキナも気に入ってくれるだろうと安心した。普通のチョコボより薄い金の毛色と蒼い目。少し頑固だが、大人しい性格はマキナも好むだろう。
何よりマキナを超える知識量と戦闘能力の高さは雌ながら目を張るものがあった。彼女ならば能力の高いマキナのつがいにぴったりだと研究員たちも口々に言った。


けれども、彼女と対面したマキナの反応は薄いものだった。可愛いよとマキナは嬉しそうに言うのだが、本心で言っていない事は手に取るようにわかる。しかしマキナは人間では無くチョコボである。性格云々より相手の能力でつがいを選ぶ。
雌としての彼女の能力には魅力を感じているらしく、マキナは彼女とつがいになろうとしているようだった。けれども、クラサメはマキナの様子が気になった。妙な親心が付いたものだと彼は困ったように笑った。


それでも、マキナと彼女が何度か会って交流を深め、そろそろ夫婦として共に暮らしてもいいのではないかとクラサメが考えていた頃だった。まだお互いに擬態した姿を見せていなかった事にマキナが気付き、お互いに擬態した姿を見せる事を提案したのだ。彼女は夫となるマキナの提案を快く受けた。
事態が変わったのはその直後だ。お互いに人間の姿を取った瞬間、マキナが膝を折り足から崩れ落ちた。それを彼女はびっくりして呆然と見ていたが、マキナが全くその体勢のまま動かないことを心配し声を掛けた。
その瞬間、マキナは部屋から全力で逃げだしたのだ。彼女はぽかんとしていた。モニター越しに見ていたクラサメですらその行動にぽかんとしたのだ。部屋に戻り、マキナが落ち着いた後に詳しく聞くと、彼女のあまりの美しさに戸惑っていたらしかった。チョコボでも恋をするのかと、クラサメは驚いた。


それからのマキナの行動はめまぐるしかった。彼女のためにプレゼントを運び、会う度に口説きもしていた。それは確かに発情期の雄鳥そのものであったのだが、最初が穏やかだっただけに彼女もクラサメもその変わり様に驚くことしかできなかった。けれど、マキナのその求愛はやがて実を結び、彼女は2羽の子供を産んだ。
ヒトチョコボの子は普通のチョコボと同じように鳥の形で成長をするため、母親である彼女もチョコボ舎に移された。その時何かあったらどうするんだ!と騒いだマキナも一緒にチョコボ舎に移動した。マキナが居住区から出てチョコボ舎で暮らす事なんて今まで無かった事だ。しかもずっとチョコボ本来の姿のままで。


マキナは父親にもなったわけだが、それ以上に恋をしたただの人間の男のようにもなった。チョコボ舎の生活やマキナの家族をクラサメは毎日モニターでチェックし、マキナにも尋ねるのだが、俺幸せだよ…という言葉と子供か嫁が可愛いという言葉しか聞くことができない。体調など詳しい様子は話してくれないため、苦笑する妻から聞くしかなかった。
マキナは父親になって駄目になったなとクラサメが思っていたある日、マキナ達家族がいるチョコボ舎を早朝モンスターが襲ったと報告があった。クラサメが連絡を受けてチョコボ舎に駆けつけると、そこには怯える妻をなだめているマキナと妻に寄り添う2羽の子供達がいた。
問題はしれっとした顔のマキナの隣で倒れているレッサークァール達だ。眼は潰され、足で蹴り飛ばされたのか体中に無数の切り傷を受け、息絶えていた。マキナに聞くと正当防衛だろとさらりと言い切られた。
いや、確かにそうである。そうではあるが、マキナの本来の姿を見せつけられたようで思わず息を飲んだ。ただの妻馬鹿では無かったのだ、このマキナという雄は。

ようやく雌が落ち着いたので、事の顛末を詳しく聞こうとクラサメはマキナだけ別室に呼んだ。激しい戦闘をしたであろうマキナの顔は穏やかなものだ。
そして椅子に座った瞬間、両手で顔を覆って俯いた。緊張が解れたのだろう。無理も無い、マキナは戦ったことさえないのだ。自主的に体力を付けたりはしていたが争い等した事も無い。いくら妻と子供を守るためだといっても怖かったのだろう。

「お前は良くやった」

マキナの肩に手を置いて褒めてやる。いつのまにかマキナは大きくなった。彼がチョコボだったとしても、そして例えチョコボは愛を抱かないと誰もが言ったとしても確かにマキナは愛を知っているようにクラサメには思えた。
そんなマキナが小さな声で漏らすように何か喋る。あまりの声の小ささに、クラサメが耳を近付けて何を言っているのか聞こうとした。

「ああ…俺の嫁さん超可愛い」

…駄目だ。マキナはあの時からこのままなのだ。軽く震えているのも、自分の妻が怯えていたのが可愛かっただけだ。彼は戦闘もクァールの死も、なんとも思っていない。大切なのは嫁と子供だけである。
ああもう愛というやつは!これだから愛なんて教えたくないのだ。




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