※まだティーダが消えるってわかっていない頃の二人です



正直言って神様とやらを信じたことはない。いきなり連れて来られた世界であれが神様です信じなさいなんて、できっこない。
それでも信じてるフリをしたのは大好きなあの娘がその神様を信じてたからだ。神様を神様とも思わない罰当たりな俺だが彼女が熱心に祈る存在は信じたいと思っていた。

じゃあ俺には神様がいないかといえば、そうでは無い。俺の心にいる神様はブリッツが好きで、大切な試合の前には必ず俺の心を沈めてくれる神様だった。その神様の存在を感じる度に、俺は心底幸せな気持ちになれた。誰も知らない神様が俺の中にいて、俺に勇気を与え続けてくれる。それは人には絶対に口にはしない秘密だった。まぁ、言ったらただの電波野郎にしかならないっすしね。

「それはね、なんていうか神様が望んだことなんじゃないかな。」

未だにシンの倒し方に納得できない俺が口を尖らす。犠牲ってなんだ、納得できるかそんなもの。
そんな俺を彼女が困ったように諭す。ああ、なんて愛らしいんだユウナ!この愛らしい生き物を失うだけでも世界にとって大損害だというのに、どうして彼女が犠牲になる事を誰も止めないんだろう。
俺はその、ユウナのふっくらとした唇を見た。その唇から彼女は彼女が信じているとされている神様ではない神様の話をした。それは皆に罰を与え続ける存在でも、皆に仮初の希望を与える神様でも無かった。
俺はユウナの中にいる神様の事はよくわからなかったけど、多分俺の中に住む神様と似てたんじゃないかと思う。そして彼女の中に根付く神様を、彼女はスピラの皆に形を変えて分け与えようとしていた。それが彼女が犠牲に、召喚師に、スピラの救世主になる理由だった。

多分彼女はずっと皆の神様を信じていなかったのではないか。だから彼女は神様の手を離れてもあんなにも美しく、皆のために舞うのだ。

俺はそう気付いた時、彼女が一層愛しくなった。あんなに純粋に世界を愛し、世界を尽くしている人を俺は知らない。それなのに世界や人々や彼女の神様は彼女に死ねという。犠牲になって新しい時代を作れ、と。そんな馬鹿げた話は聞いたことがない。
けれども彼女はその道を行くだろう。それは彼女が神様に言われたからじゃない。その道を選べと言われたからでも無い。
ユウナには世界を愛する事が出来た。人の苦しみを分かり、それを無くすために立ち上がる優しさがあった。それだけだ。でも俺はユウナに幸せになった欲しいし、死んで欲しく無い。

「多分、人によって神様って素晴らしいものなんすよ。それがたとえ違う神様でも、きっと誰だってそうなんだ」

大人になって好きな職業について、誰かを好きになって(でもできるのなら俺がいいんだけれども)結婚をして子供を産んで。そんな当たり前の人生が彼女にあればいい。人のためになんて生きなくていい。いや、人のために生きてもいいけどそのために死ぬなんてそんな悲しい事を言わないで欲しい。

「だからユウナは、そんな神様のために死んだら駄目っすよ」

それでも彼女は困ったように、優しく笑うのだ。それが俺が好きになったユウナという娘だった。



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