その日大事件は起きました。最初にそれを発見したのはティーダとフリオニールでした。二人は目を大きく開いてそれに近寄り、ティーダは下から覗きこみ、フリオニールは上から眺めながらただおろおろしていました。二人ともお互いの顔を見合わせることしかできませんでした。
ティーダとフリオニールの真ん中にいたのはコスモス軍のリーダーでした。泣く子も黙るその英雄が声も立てずに大粒の涙を流していました。

二人が言葉を失っていると、調達品を整理し終えたクラウドとセシルがやって来ました。二人はすぐに自分達の年若い仲間達が戸惑ってることに気が付き、その目線の先にいる甲冑を着こんだリーダーがいつもと違う事にも気が付きました。
その勇者にセシルが穏やかに近付き、悲しいことがあったのかいと聞きました。けれども、リーダーは首を横に振りました。理解できない、という顔をしたクラウドは放っておいてやれと言い残し、近くに腰を降ろして武器の手入れを始めました。
その態度にティーダは不満そうにクラウドを見ましたが、隣にいたフリオニールはそれがクラウドなりの優しさだとわかっていたので、何も言いませんでした。

クラウドが武器の手入れを始めたと同時にバッツとジタンとスコールが帰ってきました。案の定、四人とリーダーを見つけたジタンとバッツはものすごい勢いでリーダーに近付きその顔を覗きこみました。どうしたんだ、何かあったのか。二人は口々に声を掛けますがリーダーは何も言わずに涙を流し続けます。
不治の病か、有り金全部スラれたのか、それともガーランドの中味が女性だったのか。隣のジタンがおいおいそりゃねーよという顔をしてもバッツはあり得ない(バッツ的にはただの体験談なのですが)リーダーの不幸を話し続けました。
じゃあジタンはどう思うんだ?バッツがそう聞くので、ジタンは自信満々にそりゃリーダーは女神にフラれたに決まってんだろ!それしか考えらんねぇよと自信満々に言いました。
そんなジタンとバッツの首根っこを後ろからスコールが引っ張り、その騒がしさを一種で消しました。それでもまだぶつくさ言う二人を脇に抱えながらスコールはリーダーを見詰めます。見詰めるだけ見つめたスコールは、眉間の皺を少し深めました。
けれども通常から皺の深いスコールですから、バッツとジタン位しかその変化には気付きません。そしてそのまま何も言わずに去っていきました。何も言わないのかよ!とティーダが渾身のツッコミを後ろから放ちましたが、スコールはいつも通りそのツッコミさえもスルーしました。

そこでようやくティナとオニオンナイトが戻ってきました。すぐに秩序の変化に気付いた二人はリーダーに近寄りました。どうしたの?と聞くオニオンナイトにリーダーはただ首を横に振りました。何でも無いよじゃないよ、とオニオンナイトは怒りましたが周りの大人達はよく理解できるなぁと感心していました。普段であればすぐに理解できる事もわからなくなる位、コスモス勢は混乱していました。
オニオンナイトの隣にいたティナがその細い腕をリーダーに伸ばし、涙を拭ってよかったら話してと首を傾げました。それをジタンが奇声を上げながら羨ましがりましたが、スコールがどさりと落とすと呻き声を上げて静かになりました。

「君達に言う別れの言葉が思いつかないんだ」

コスモス勢の皆はきょとんとした顔をしました。それは少し離れた所にいたクラウドも、ジタンとバッツを黙らせていたスコールまでも皆満遍なくしました。そして次の言葉を聞き取ろうと耳を澄ましました。

「あんなに私によくしてくれた君達へ、気の利いた言葉が一つも出ないだなんて、私はなんて駄目な男だろう」

そのリーダーの発言に、セシルやバッツは意外そうな顔をし、クラウドとスコールは眉を顰め、ティーダとジタンはそんなことかと安心し、フリオニールは少しだけ絶望し、オニオンナイトとティナは顔を見合わせました。

「言葉なんていらないっすよ」
「そうそう!大事なのは言葉より雰囲気だよなぁ」
「でも、やっぱり何も言わずにお別れってのもちょっとなぁ」
「じゃあ、盛大にお別れ会でもしようか?」
「あーいいなぁ!そしたらいっぱいごちそう準備して騒ぎまくろうな!」
「学校じゃないんだぞ…」
「…お前でも、ツッコミが出来た事が俺には驚きだがな」
「馬鹿なこと言ってないで!言葉なんていいんだよ、その時思った事を言えば」
「そうね、飾る必要は無いわ。それに私達は別れても、一緒に戦った事が消えるわけじゃないでしょう?私達が覚えていなくても、それは素敵な事だと思うわ」

ウォーリアオブライトは顔を上げました。そこにあるライトに向けられる顔は優しさに満ちていました。自分がずっと子供だと、守らなければいけないと思っていた笑顔は気付けば大人のものになっていました。その成長に嬉しさと少しの寂しさを感じながら、ライトは涙を拭い、ありがとうと言いました。





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