※スコールがアルティミシアさんのいた未来に行く話です
若い頃のミシアさん妄想注意。



気が付くと、知らない場所にスコールは倒れていた。確か、カオスを倒す直前の野営で皆と休息を取っていたはずだ。
フリオニールとセシルに、自分達が見張りをするから少し寝てくればいいと言われて、目を覚ましたら硬い地面の上に直で寝ているとは。起き上がって周りを見渡しても誰もいない。
周りを見渡せばそこは高層ビルが立ち並ぶ街で、見覚えさえ無い場所だった。けれども、その整備された冷たいコンクリートの地面やそびえ立つビル群はスコールの故郷の世界に酷似していた。

ガンブレードを肩に抱え直しながら、まだ明けていない空をスコールは見る。寝た記憶が無いというのに、スコールの頭は妙に冴えていて身体に疲れは残っていない。
その場に留まっていても、現状は変わらないと判断したスコールは高層ビルの一つに入って行く。見れば見る程そのビルはスコールの世界のものに似ており、ここがあの異世界の仲間達と戦った世界で無い事を実感した。
まだあの世界の用が終わったわけでは無いのだがと、非常階段を上りながら心の中で呟く。
8階の鍵が開いていることに気付いたスコールは少しだけ扉を開けて中を確認する。そこには人の気配は無いが、いくつかの機械音が響いていた。目を凝らすとそれらが医療用の機械である事がわかる。ここは製薬会社か医療品を扱う会社なのか、それともクリニックのようなものだろうかと疑問を持ちながら静かにその部屋にスコールは入った。

その瞬間、ぎぃと奥のベッドが軋んだので咄嗟にスコールはガンブレードのトリガーに手を掛けた。けれどもカーテンを引いて出て来たのは、生気の全く無い自分より年上の女性だった。
相手はスコールを見て驚いていたが、何も言わずに女性を見るスコールに敵では無いと安心したのか、肩をすくめてそのままベッドに座った。暗闇の中で、窓から差す月灯りだけを頼りにその女性をスコールは見た。
白銀の長い髪と深紅のドレスを纏ったその女性にスコールは明らかに心当たりがあったのだが、事の成り行きを見守ろうと沈黙を保つことにする。

「なにか、食べるものを持っていないかしら」

自分が知っている、妖艶な美女は優しい頬笑みを浮かべながら相手を騙す事を得意としていた。使う技も遠距離攻撃である魔法ばかりで、こうして手に拳銃を持っているような活発なイメージは無い。
目の前の女性は他人にしては驚く程似ているが、別人物なのだろうかとスコールは首を少し傾げる。スコール本人は非常に驚いて戸惑っているのだが、一切表情にも態度にも出ていないため、女性は眉をしかめて呆れていた。
そのあからさまに不機嫌になった女性はスコールの知る魔女よりずっと余裕が無く、良く言えば普通の人間らしかったので、スコールは携帯していた固形食を彼女に差し出した。
それは仲間達に見せて不思議がられた携帯食品である。ティーダとクラウドだけが懐かしいと言ってくれた食品だ。それが妙に嬉しかったのもいい思い出である。

美女は差し出されたそれとスコールを交互に戸惑ったように見ていたが、やがて空腹に負けたらしく、携帯食品を食べ切った。その食べ方があまりに急いでいたので、スコールはぽかんと女性を見る。
スコールが知る魔女はそのようにははしたない真似は決してしなかった。とにかくプライドが高く、スコールはおろか誰かに媚びたり無様な所は決して見せない女性だった。
携帯食品を食べた彼女は、一息吐いてスコールを見た。そのすっとした立ち姿はうす汚れたドレスや光沢を失った髪でなお、誇り高いものだった。

「私はアルティミシアと言います。助けてくれてありがとうございます。先程はみっともない姿を見せてしまいましたね…」

そのくたびれた宿敵の姿にスコールは思わず壁にもたれ掛けていた背中を浮かせて呆然と立ち尽くした。あまりの衝撃に思考が止まってしまったスコールは、アルティミシアと小さく呟いた。
目の前にいるアルティミシアにはその小さな声さえも聞こえていたようで、もう私の名がこの地方にも届いているのですかと目を伏せた。けれどもその言葉もスコールの放心した脳には届いていない。

「あんた…そんなホラーゲームの主人公みたいな感じだったか…?」
「ホラー?そもそも私と貴方は初対面でしょう?」
「…あんた、魔女だよな?」
「…その事を、何故知っているのです。私の名を一市民は知っていても、魔女の事を知っているのはごく一部の者なはずですよ」
「…時間圧縮とか、しないのか?」
「時間、圧縮?」

完全にスコールを不審人物扱いするアルティミシアにスコールは寡黙なキャラを忘れて話し続ける。魔法は使えないのかとか化粧はまだそんなに濃く無いなだとか、とにかく聞き続けた。それをアルティミシアは律義に答える。益々その魔女らしからぬ姿にスコールは眉を大きく歪めるが、彼女の方が腹を立てていたらしくはぁと大きく溜息を吐いた。

「大体貴方こそ何なんですか。味方には見えませんし、かといっても敵にしては可笑しすぎます。本当に私を殺すか捕まえる気があるのですか」
「やはりここでも魔女は迫害されるのか?」
「魔女が、迫害されない世界なんて私は見た事がありませんよ」

そのアルティミシアの姿がそれまで見たどの彼女より寂そうに見えた。あの魔女でさえ、ただの人間だったことにスコールは驚く。あの孤独な城で魔女を切った感覚をスコールの掌が思い出す。可哀想な時間の女主人。

「…何度か、あんたのような魔女を守った事がある。俺ならあんたをこの世界から救ってやれる、だからそんな風に悲しむな」

スコールはリノアの柔らかい身体を抱きしめた感覚を思い出していた。優しい恋人。彼女ならこの行動を咎めないでくれるだろうか。目の前にいる味方のいないこの魔女を救っても責めないでいてくれるだろうか。魔女があの恋人のように無邪気に笑うことを許してくれないだろうか。そして彼女もそれを笑って受け入れてくれないだろうか。
ああ、珍しく熱血になってしまった自分が恥ずかしい。言った後にあまりの自分らしく無さに思わず頬を染めたスコールだが、目の前にいる女性が泣きそうな顔をしていたので、黙ってまた恥ずかしそうに俯いた。








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