※温泉に1組が行く話。
ガーランドの中身や家族の描写があります。
妄想だよね?妄想です。
全体的にガーランドに夢を見すぎている気がしますので、お気を付け下さい






この世には言葉にはできない、不可解な事が確かに存在する。まさにウォーリアオブライトもそれを今体験していた。ライトの目の前にいるのは甲冑を外したガーランドである。しかも温泉に入って酒まで飲んでいる。ライト自身も酒を飲んでおり、風呂場には無数の徳利が散らばっていた。

そもそもこうなった理由がなんであるか、ライトの酔いの回った脳ではよく思い出せない。秩序の聖域から少し離れた所にある温泉にライトが仲間に勧められて一人で来た事が原因なのか、はたまたこの温泉が偶然にもカオス神殿からも近かった事がいけないのか、鎧を脱いだガーランドが金髪で碧眼だったことにライトが言葉を無くす程驚き去る事が出来なかった事がいけなかったのか、ライトには判断する事が出来ない。

とにかく、ここまで酔ってしまったのは親睦を深めるようにと女神が大量の酒を用意してくれたからだ。最初は不真面目なと、憤慨していたガーランドも女神の飲みなさい、という眩しいまでの笑顔に押されてしぶしぶ器を受け取ってしまった事が運の尽きだった。

「お前は、酒なぞ飲まんと思っておった」
「確かに、飲んだのは初めてだ」
「もとの世界では飲まなかったのか?」
「元の世界の記憶が無い」
「そうか」

ガーランドは何も言わずに酒を飲み続ける。酒に強いガーランドだったが、この種類の酒は飲んだ事が無い。それでも戦いに明け暮れる毎日を忘れさせ、宿敵に向ける殺意を柔らかくさせるにはそれは充分だったらしい。

ライトは黙々と酒を飲むガーランドを見る。ライトよりずっと早いペースで彼は酒を飲み続ける。それでも決して酔わないのはガーランドが酒に慣れているからだろう。兜を取ったガーランドの金色の髪からぽたぽたと雫が落ちている。

ライトが想像していたガーランドの外見より、実物はずっと垢抜けた人物だった。いくつか顔に走った皺と傷、身体に付く筋肉が武人としての人生を物語っていたが、金の髪や緑の目は戦いを好むような騎士には見えなかった。

「もっと、お前は厳めしい人間かと思っていた」
「よく、妻にもそう言われたものだ」

ぽかり、とライトの口は空いていたと思う。ぴしゃんと額から垂れた雫が湯船に落ちる音がやけに大きく感じられた。

「妻が、いたのか?」
「ああ…控えめだが優しい女だった。息子や娘もいて、良い母親だった」

ガーランドは酔っているのだ、とライトには分かった。そうでなければこの男がこんな風に話すはずが無い。

「儂は騎士としての地位も確立し、若い世代もたくさん育てた。大きな戦争こそ無かったものの、モンスターの討伐や賊との戦いは絶えなんだから、前線にも出て活躍した」

ライトはガーランドの事をよく知らなかった。単に記憶から抜け落ちているのかとも考えたが、多分元の世界でもガーランドの事を知らないと思う。

「けれども、儂の身体に流れる血はどんどん腐っていきおった」

ライトは、ガーランドが戦いを好んでいる事が怖かった。例えば、世界を破壊するために戦いをする者がいる、自分が迫害されないように戦いをする者もいる。けれどもガーランドは戦いのために戦いをした。

「騎士として戦って死ぬのは怖くない。むしろ誇りでさえある。恐ろしいのはこの血が平和に慣れ、戦う事を怖れる事だ」

腐ったのは騎士としての誇りだろうと、ライトは言いたかった。けれども、この目的を失った哀れな宿敵にライトは掛ける言葉を持たなかった。

「儂は世界の腐敗や人々の絶望をどうこうしたかったわけではない。儂が、このまま朽ちていくのが、耐えられなかった」
「…お前は、真っ直ぐ過ぎるんだな。そして人に自分の優しさを示す事ができないのだ」

ガーランドが勧めてくる酒をライトは一気に飲み干す。酒による酔いなのか、湯当たりをしているのか区別がつかない程身体が熱かった。

「お主はどうしてそこまで儂を救おうとする。切り捨ててしまえ、儂はそれだけのことをした」
「お前を見ていると、故郷はこんな世界だったのかと思う事がある。故郷の記憶の無い私にとって、お前のどこか狂気染みた所も、正々堂々とした生き方も、故郷の一部に思えてならない」

仲間達は皆、元の世界の素晴らしさと陰鬱さを知っていた。だからライトも自分の世界は美しいが、何か問題を抱えているのだと思っていた。
どうしようもなく、陰惨で人から希望を全て奪い切るような世界で無ければいい。せめて、この剣を振るうだけの希望を持てる世界であればいいとも願っていた。

「…そのような理由で、儂を助けるのか?」
「それに正直、お前の事も他人事とは思えなくてな。私も真っ直ぐすぎる性格だからな」
「自覚が、あったのだな」
「ああ…近頃、平成世代と話が合わなくなってきたからな」
「それは、分かる気がするな」

結局、ガーランドを救いたいのはエゴなのだとライトは思う。彼を見ていて何かしなければと思うのは、自分と唯一同じ世界の者という繋がりを頼ってのことだ。ガーランドを救う事は自分を救う事にもなる。
それは全く別の問題だというのに、ライトには割り切る事が出来ない。そんな勇者の性格を知っているから、ガーランドも強くこの宿敵を否定しなかった。

「それにしても、やけに素直なのだな今日は」
「温泉とはそういうものだ」

今日のようにずっとガーランド素直になってくれればいいのにとライトは思う。けれどもそれができないことはお互い充分にわかっていた。せめてこの会話をガーランドが忘れる事が無ければいいのにと、ライトは残った酒を一気に飲み干した。





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