※12回目ラストです


痛みががんがんと、ライトの脳を叩き続けている。
ウオーリアオブライトの体中から血が流れていた。血が流れていない部分は打撲か、骨にひびが入っていた。目の奥は熱かったし、口の中は喉までからからに乾いていた。けれども体がどんどん冷えてくるのだけを勇者は感じていた。

コスモスが力を使った後、ライトは知らない場所に立っていた。満身創痍のライトは確かに仲間達が光に包まれるのを見た。負けたのだ、と思った。自分に力があれば勝てたかもしれない。もっと広く戦場を見る事が出来れば仲間は死なずに済んだかもしれない。
けれどもすべてが終わったことだった。何より目の間にいる戦士達が何人かが燃えていることがライトの負けの証拠だった。彼は死ぬ程の後悔と屈辱を味わった。そして当然ながら絶望も。

「また戦えばいいんですのよ。」

そこには今までいなかったはずの、小さな淑女が立っていた。ライトは彼女も今回の戦いで死んだと思っていたので驚いて、力無く目を見開いた。その小さな仕草も彼女は見逃さず、微笑んだ。負けたというのに彼女は美しく笑う。ライトは負けたなと呟いた。

「貴方には次の世界がありますわ、そこで勝ちなさい。」

小さな博士がさも当然そうにそう言うのでライトは少しだけ腹が立った。珍しく彼には希望というもの見出せなくなっていた。そこにはただ暗闇しか無かった。次の世界でライトは勝たなければいけなかった。それは彼自身の願いであり、使命であり、ライトを残していった仲間達の悲願でもあった。
その宿命は驚くほど輝いている反面、ひどく重たいものだった。たとえイミテーションが無限に量産されなくなったとしても、今回の敗北で記憶や絆を失った秩序の軍勢が勝てる保証も無かった。

「勝つ方法は自分で考えなさいな。でも貴方は全てを失ったわけでは無くてよ。」

淑女の笑いは大抵好奇心に満ちたものだったが今ライトを見る目には好奇心や興味はありはしなかった。彼女は慈しむような目でライトを見て、それからその丸みを帯びた体全身を震わせて満足そうに高笑いをした。

「貴方はこの戦いで多くの仲間や絆を得たでしょう。それら全てが無くなると思って?」
「しかし記憶は受け継がれないのだろう?」
「そうですわ、貴方は忘れますわ。」

その黒魔導師にしては要領の悪い喋り方にライトは思わず彼女を凝視した。

「貴方が貴方である限り、貴方の血と肉と魂が覚えていますわ。それは決して忘れることは無いものですのよ。」

そういうものだろうかとライトが眉を顰めたのを見てやはり淑女は笑う。この身体が全てを覚えていて、次の世界にこの絶望も希望も持っていける事が出来たなら、ライトは今度こそ勝つ事が出来るだろう。

「嘘ですわ。」
「は?」
「ふふ、覚えているかなんて知りませんの。貴方って本当にからかいがいがあるんですもの。」

ライトは瞬時に殺意を覚えて、奥歯を噛み締めた。やはりこの我儘で傲慢な博士の言葉は真面目に聞かない方がいい。
いいかライト、おばさんの話は冗談8割にとるんだぞ。そういえばそうプリッシュもそう言っていた。彼女はわりと大雑把で面倒くさがりの性格だったのでその彼女自身の言葉も若干ライトは流していたのだがこんな所で役に立つとは。

そうしてライトは目を開けて空を見上げた。ライトと淑女を光に竜が包んでいく。いつのまにか頭の痛みは消えて無くなっていた。




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