勇者はその大きなテーブルに並べられた様々な豪華な食事を見た。ライトが知らない料理も多くある。事の始めは新年を迎えるにあたってもう正月っすねとティーダが言ったことである。
正月とは新年の儀式の一つらしい。彼が言うには色々やることはあるんすけど、要は美味しい物を食べて神様に新しい年がいい年であるようにと祈るんすよ、とのことだ。それで新年を迎えたその日に皆で各世界のごちそうを持ちよってささやかなパーティをすることになったのだ。

勇者の目の前には大きな丸いチーズとまだ中側の赤い肉が置いてあった。その目の前には立つのはオニオンナイトとジタンである。チーズかぁと少し小馬鹿にするジタンにそっちこそ肉が生じゃないか!と噛み付いていた。一瞬間に入って喧嘩を止めようかとライトは思うがとりあえず成り行きを見守った。
ばっか、これは中が少しだけ赤い物が一番いいんだよと、それに蒸し焼きにしているから大丈夫だぞと笑っていた。チーズは。チーズは僕達の里でも嗜好品として食べられた、けれどもここまで手の込んだ上等のチーズは戦いが激化するとほとんど焼き尽くされたり壊されたりした。だからこんなに良いチーズを食べるの久しぶりなんだ。
オニオンナイトが寂しそうに、それでも懐かしそうな声でそう言うとジタンもつられて俺もこんなにいい肉をこんなに手を掛けて食べるのは久しぶりさと切なげに笑った。いつもは明るいジタンだが彼も暗く陰鬱な生活を強いられていたのかと思うと、勇者はどうしようもない気持ちになった。

そのまま彼らの先に目をやると、2つのやや小さな鍋が見えた。その鍋の隣にはそれぞれ奇怪な魚が並んでいる。ひしゃげた茶色い魚と丸い魚の目の前にはスコールとティーダがいた。
あれは食べられるのだろうか。どう見ても毒を持っているように見える。それかあの生き物はものすごく強くて食べるのさえ難しい魚なのだろうか。それにしてもグロい。
怪訝な顔をしているとスコールとティーダの隣でワインを持ったバッツとセシルがやはり怪訝な顔をしながらその鍋を見ている。やはり、皆そのような顔になるのだ。けれども勇者とバッツやセシルの違いはそこで即座に踏み込むか踏み込まないかである。
ほぼ何の戸惑いも無く2人はその鍋へと手を伸ばし魚を一切れ口に入れた。うまい!おいしい!同時にそう2人が叫ぶと周りにいた皆もその鍋をつつき始めた。
当たり前すよ、これは俺達の世界の高級魚なんすから!と得意げに言うティーダと被ったなと照れくさそうに言うスコール。いつも弱音も吐かない2人が年相応の顔をするのを見るのはいいものだ。あの大人に褒められて誇らしそうな顔をしている子供達は自分の仲間なのだ!ライトの保護欲が満たされていく。

いやいやうめぇよとセシルとバッツがまたお互いのグラスを合わせるとカチンと綺麗な音がする。先程聞いた話だと彼らの世界ではこのワインと言う飲み物は高級なものらしい。
儀式用の用途が一番大きいよねと言うセシルと俺の所は嗜好品としても人気だったぜとバッツは笑う。死にそうな時に口に入れられたワインが忘れられなくてさと苦笑するバッツにセシルが雪山でも使ったことがあるよとセシルも困ったような顔をする。
いつも楽しそうに生きている2人だが、れっきとした戦士である。死にかけたこともあるのだろうかと思うとそれはそれで複雑である。そのセシルが手に持つ白ワインとバッツが手に持つ赤ワイン。
その両方がライトの前にも置かれていて、一口だけ舐めたライトはその熱さに咽喉を焼かれて驚いたものだ。そのライトに驚くバッツとセシルの顔は思い出すだけでも愛しいものだった。落ち着いて少しずつ飲めば身体が温まる程度だよ、無理なら飲まなくていいからな。2人の面倒見の良さがライトの少ない記憶につもっていく。

その2人の更に奥、クラウドとフリオニールが食べているのは野菜スティックと焼き菓子である。非常な対象的な構図は本人達も気になっているらしくお互い苦笑している。
なんで、野菜なんだとぽりぽりとフリオニールが野菜スティックを食べている。俺の世界は新鮮な生野菜ってあんまり手に入らなかったんだ。缶詰とか栄養の高い食品はたくさんあったが太陽の元で育った野菜は少なかったからなと寂しそうにクラウドは笑う。
そうか俺の世界は野菜はどこでも割とあったけど、こういう嗜好品は極端に少なかったから手に入ったら仲間の女の子に食べさせてたよ、彼女が喜ぶとこっちまで嬉しくてとフリオニールも笑う。
正反対の世界を生きて来た2人がお互いの世界の贅沢を食べる。それは自分の世界では当たり前の食事だったが、2人にはいつもと違う味がした。そしてライトにとっても2人が思う味とはまた別の味がした。
元の世界に戻ったら自分の世界の食べ物は懐かしいと思いながら食べるのだろうか。それともやはりこのように不思議な味がするのだろうか、ライトはまだ見えぬ故郷を想う。

そんなライトに声を掛けるものがいた。ティナとコスモスである。戦いのさなかといえ今日くらいはこうして会食をしても許されるだろう。彼女を誘ったことはおこがましいかもしれないが、共に楽しい記憶も残しておきたいと仲間と話し合った結果だ。
コスモスは少し照れたように、けれども嬉しそうにそのテーブルを覗く。それを見ていた仲間達もやはり照れたように嬉しそうにコスモスを見た。
私はこれを用意したんです、照れくさい沈黙を破ったティナが掌に載せていたのはチョコレートと呼ばれる菓子らしい。ライトはティナの元の世界でのことを知らない。けれども何かとてつもなく辛いことがあったことはわかる。
全員がそうであったが、彼女はその巨大な過去につぶされそうになっていた。そして彼女は少女だった。剣を持つような手でも無ければ、素早く動ける筋肉があるわけでも無い。彼女の手は細く優しいものだった。それを守るのが自分の役目だとライトは信じていた。
だから彼女が愛する素朴な菓子までライトは愛おしい気持ちになる。コスモスもそれは同じようでありがとうと、優しく彼女に微笑んだ。

そうしてライトの隣に来るとそれでどうして貴方だけすき焼きなんですといつもと変わらない声でライトに聞く。すき焼きが昭和では一番のごちそうでしたから。そう言うライトにもっといいものもあったっすよ昭和は、と言うティーダとメタか…と呟くスコールの声。今日も秩序は平和である。



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