ケフカは金属片で塔を作っていた。亜鉛の色をした、小さな塔はある程度の高さまで積むとケフカ本人によって壊された。ケフカは時々、歌うように囁く。

ティナ、ティナ。

少女が空賊の小僧に拐われて、カオス勢を去ったことが未だに彼には憎らしく、耐え難かった。自分本来の感情と少女に対するいとおしさがそうさせた。
多分、こちらの世界ではない、もとの世界でケフカは幼い彼女を見た。


その頃、彼はもう宮廷魔術師であったし、道化でもあった。倫理に反する世界の中で見た彼女は心身ともに傷付いていた。ああ、守らなければ。この寂しい、迫害された哀れな娘を守るのが、私の仕事。ケフカがティナに目をかけたのも、幻獣の力を強めさせたのも、すべからく、愛情から派生したものだった。

ケフカの世界は実験と狂気に満たされていた。時折、彼の心を帝国の人間が乱したが、大きな波紋にはならなかった。
しかし、随分前に壊れた時間の歯車の中で生きていたケフカと違い、ティナは成長し美しい娘になった。
ケフカは時間の流れに驚きながらも、一般的な女性の成長も心得ていたから、その度に甲斐甲斐しく世話を焼いた。彼は彼女に化粧を施し、装飾品を施した。
人間に似ているのにそうではない娘。ケフカはそう嘲りながら、彼女を愛した。
ティナは空っぽの目でそれを受け入れたし、他の人間に何を言われても、ケフカもティナも気にしなかった。

 ある日、ケフカがいつものように実験をして、いつものように人を殺して、いつものように戦いから帰ったティナを愛そうとすれば、ティナは帰ってこなかった。
敵に保護されたらしい、ティナが哀れだった。可哀想に、あの普通の人間たちの中ではあの子は生きていけまい。ケフカは心底同情した。

しかし、ティナは心を手に入れた。あの醜い少女のために命を懸ける仲間が表れた。それどころか、ティナは強くなり、かつての自分やその周りを囲っていた世界を否定し始めた。
その中にはケフカも入っていて、たちまち彼女はケフカを憎んだ。怒りや悲しみより、戸惑いがケフカを支配した。ティナ、ティナ、どうして?ケフカがティナを愛するほど、その戸惑いは大きくなる。
戸惑いはケフカを支配し、実験や魔法を遠ざけた。どんどんケフカはケフカで無くなる。遂にケフカは愛したティナを憎み、許しがたい存在にすることで、自分と世界を取り戻した。結局、もとの世界でケフカとティナがわかり会うことはなかったのである。


 この世界で、ティナは迫害されることはないものの、自分を見失っていた。そんな彼女は暖かさを求めて去ってしまった。
可哀そうなティナ。私が救ってあげる。お前の力が生かせる殺戮の世界をあげる。

金属片がケフカ以外の力で崩れる。ティナ。ケフカは嗤う。ティナの顔に映った苦悩を受け取ることもせずに。心の奥底に沈めた愛を彼女に差し出すことなど無く。ティナ。道化は嗤う。その歪められた思考からは少女の幸福には到底届くはずもなく。


懐かしさより重く


そして二人は殺し合う。 愛や憎しみ等、おいて。



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -