※カオス戦前、セフィロスを倒した後です





何か思い出せそうな気がする。薄緑に輝いた光は星の体内を巡ってゆっくりと中心部へ流れて行く。セフィロスはその光を見ると、酷く穏やかな気持ちになったが何か大切なことを忘れているのではないかと体が疼いた。

セフィロスが手を伸ばせばその光は彼の手をゆっくりと包み込む。その暖かさに、もしも母親がいるというならこのようなものだろうかと思う。

セフィロスは自分を産んだ女性を知らない。その夫となった人物も知らない。だからこの身に流れる血に未知の生物のものが流れていると知った時、驚きと共にどこか納得するものもあった。
今までずっと自分は特別だった。誰も使えないような魔法を使い、誰も倒せないようなモンスターを倒した。誰もこの腕が振るう刀の前には立って居られなかった。

英雄。その名に誇りを持っていた。けれどもそれは自分の力では無く与えられた力だった。偶然自分が当たりを引いただけで、同じような境遇にいた友人達はモンスターになってしまった。
いいや、魔光を浴び続ければきっとセフィロスもモンスターになってしまうだろう。他の兵士達と同じ道を辿る。自分だけが例外か。
今までそうだった。けれども研究の報告書を見る限りは無理そうだ。それならばどうする。このまま人に使われ、人に尽くし、モンスターとなって人に殺されるのか。いやだ。セフィロスの中に激しい拒絶が渦巻く。
セフィロスの味方となる人物は皆死んだ。誰に頼るべきか。人は自分を信頼しないだろう。時間が無かった。それではこの血に流れる存在は。自分が生きるか、世界が死ぬか。英雄が伸ばした手に掴んだのは間違った選択肢だった。


その選択をセフィロスが間違ったと思ったことは無い。世界はセフィロスの願いを聞き入れなかった。それも仕方ないと思う。やり方が強引だった。多くの人が死んだ。けれどもセフィロスは人でありたかった。彼が愛した英雄でありたかった。
全てが終わった後、再びライフストリームに送られて、セフィロスはようやく自分が大切にしていたものが手に入らない場所に行ったのだと気付いた。
友人達も、英雄と慕っていた兵士達もセフィロスは失っていた。それはかつてのセフィロスが全力を尽くしても守れなかったものだ。英雄、何を馬鹿な。ただのモンスターになりかけた哀れな男が何も救えなかっただけだ。

「セフィロス。」

クラウドは、カオスへ最後の戦いを挑むためセフィロスを倒し、彼と決別したはずだった。セフィロスも後ろ向きながらも成長し続ける彼をうっかり気にもしていた。けれどもそれも、もはやどうでもいいことだった。
思った以上に早々に復活したセフィロスは星の体内で世界の終わりを待っていたが、セフィロスなりの歪んだ優しさを大きなお世話と断った彼は何故かここへ来たらしい。もう2度と会わないと思っていたのに。セフィロスはゆっくり振り返ってその兵士を見る。

「なんだ、まだ何かあるのか。」
「いや、特に。」

クラウドの恰好を見ていると、まだ神羅に所属していた時を思い出し複雑な気分にセフィロスはなる。ソルジャー、誇りを持った兵士達。誇りも何もかもを失った自分にはその思い出は辛過ぎた。
だから刀を振るいたくなる。それはクラウドに対しての憎しみでは無いのだが、簡単にクラウド自身と切り離せる問題でも無かった。

「用事が無いのであればさっさと行け。」

できるだけクラウドに関心が無いように言う。というかほとんどクラウドに関心など無いのだ。確かに彼には1度といわず2度までも殺されているが、個人的な私怨はほとんど無いといってもいい。
私怨というよりは、巻き込んで申し訳ないな位にはセフィロスは思っているのだがあまりにもクラウドからセフィロスの評価が歪んでしまっているため、真っ直ぐその想いが届いた事も無い。
それを訂正しようとも思わないのだ。どうせ自分は狂った英雄だ。今更そんな小さな事を直したって何が変わる。

「あんたが、泣いているんじゃないかと思って。」

泣いているのはお前だろう、とセフィロスは言い掛けてやめた。時々、本当に時々だがクラウドという人間は全てを悟ったように振る舞うのだ。愚かな人間なはずなのに、そういう時のクラウドの言葉にはまるで魔力があるかのように、心の中にすっと入りこんでくる。

「モンスターでもいいじゃないか。あんたはあんただ。」

クラウドは、何処まであの神羅という組織の闇を知っているのだろう。クラウド自身も人体実験の被験者であった。セフィロスコピー。羨ましい、私が生きられなかったのに英雄でも無いお前は生きた。化け物にもならずにお前は英雄となった。お前を助ける多くの人間によって、私が成し遂げられなかった道をお前は拓いた。

「それでも、あんたは俺の英雄なんだ。」

愛される兵士。多くの人間から手を伸ばされた男。彼を構成するたくさんの人々。その中に自分がいるだなんてセフィロスは想像もしていなかった。彼に手を差し伸べた一人は英雄セフィロスでは無かったのか。もしかしたら、間接的にでも英雄としての自分はクラウドと共に世界を救ったのではないか。そんな、馬鹿らしい。世界を道連れにしようとした自分が、どうして。

セフィロスがその場で目元を手で隠すのを、クラウドもまた泣きそうな表情で黙って見ていた。もうそこまで世界の終わりは迫っているというのに、2人の大人は黙って何も言わなかった。




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