ウォーリアオブライトの朝は早い。
まだ日も明けぬうちから彼は静かに身を起こし、水を汲みに泉へと歩き出す。いつも丁寧に磨かれた鎧はその時ばかりは身に付けず、大きな桶を両手に抱えた彼は寝起きとは思えない軽やかな足取りである。
彼はこの時間が一日の中で一番好きだ。少し肌寒い空気は静かでありながらこれから始まるであろう朝を感じて勇者の心は震えた。この時間彼はどうしようもない絶望に襲われる度、その分だけまた美しい希望に触れるのだった。

泉の側に行けばバッツがチョコボの卵を集めていた。
バッツが毎日どこからか卵を持ってくるのが勇者は不思議で仕方無かった。最初はモーグリショップで買ってきたのだと思っていたのだがどうやら違うらしいので、バッツをライトが付けて行けば泉の傍ではたくさんのチョコボが飼われていた。
その光景にライトが驚いていると悪戯がばれたような顔でバッツは、皆には内緒なと言ったので今日までそれは2人だけの秘密となっている。

今朝もまた勇者と旅人は目を合わせると笑い合った。いつのまにかライトも子供のように笑うようになったのだが、そのことはバッツしか知らないことでもある。

ライトがそうであるようにバッツもまた朝が好きであった。元の世界での彼はいつからか朝の明ける前の暗闇が怖く無くなった。それよりも昇る朝日に燃えるような希望を抱くようになっていった。
常に付き纏う死と敗北の恐怖より自分が生きて動く喜びにバッツは支配される。それをどこか寂しい気持ちだったが朝の空気を吸い込む度にそういった寂しさも希望へと呑みこまれて行った。

ライトとバッツが合流してホームへ帰るとクラウドがまだ薄暗い中で火を焚き、その近くでセシルがパンを焼き始めていた。2人ともバッツとライトに気付くと軽く手を挙げて挨拶をする。まだ他の者達は寝ていた。

ライトが朝一番で動き始める事を知って、セシルも皆のために動きたいと考えて、こうしてパンを焼く役に身を置いている。
元の世界でも自分は同じ役目をしていたからか、パンを作って焼くことにさして苦痛も感じなかった。セシルにとって役割が負担にならないのは、その役目によって自分が律せられているという自覚もあるからかもしれない。

セシルにとって朝は大きな希望とじくじくした恐れを運んで来るものだった。愛しい人の金の髪を眺める度に脈拍の上昇を嫌でも感じる反面、その静けさと冷ややかさに彼は度々恐怖した。
その恐怖を裂くようにパンの焼けた匂いはセシルの鼻孔を突き抜け肺まで侵入し、やがてその場一帯を暖かい空気に変えてしまうのだ。その優しい空気と時間が彼には愛しくて仕方が無かった。

セシル以上の恐れを隣で火を焚いているクラウドは持っていた。彼はパンを焼くセシル以上に火が好きだ。鬱蒼とした彼の故郷で火とはその陰鬱さを吹き飛ばす方法の一つだった。
その割に彼は火を心に灯すことが苦手だった。時々、どうしても灯さなければいけない時だけ、彼は火を灯した。けれどもその火は瞬く間に大きく燃え上がり、多くの人の心を温め、彼らの道を照らした。それがまた彼には誇らしく恐ろしかった。
クラウドが火を灯すと決めるのは大抵朝だ。恐れに流されるようになりながら、朝の空気は彼を優しく包む。自分を受け入れてくれる全ての者達のために、澄んだ空気を吸い込んで彼は火を灯す決意を固めるのだった。

こうして挑戦者たちのもとに朝が訪れようとしている。希望も絶望もまた彼らの心をずしりと満たし始め、今日が始まるのだ。その苦みを知った大人達は愛しい子供達のために、また支度を続けるのだった。




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